頂きもの・捧げもの | ナノ


▽ 冬生さんより!


「あ、お帰りなさいリタ!」

「リッカ……これは一体……?」

冒険最中、一息入れようとリッカの宿屋へ戻ってきたリタ、アルティナ、カレン。

「え? ……あ、これ? ほら、もうすぐお正月だから」

「おしょーがつ……」

「あら、もうそんな季節ですのね」

ひょっこり顔を出したカレンを見つけ、リッカが「あら?」と首を傾げた。

「もしかして、リタの新しいお仲間さん?」

「カレンと申しますわ。よろしくお願いします」

「あ、私はリッカ、ここで働いてる者です。いつもリタがお世話になってるみたいで……」

リッカの保護者のような挨拶が気になったが、深々と頭を下げ合う二人であった。

「ところでリッカ、」

「なぁに、リタ?」

「おしょーがつって、何?」

「「「…………」」」

世間知らずにも程があるリタの発言に、一同沈黙した。

「そういえば……ルイーダさん達は、毎年お正月は宿屋で過ごしてたんですか?」

宿屋のお手伝いをしようとカウンターの台を拭いていた時、ふと思ったこと。自分がいる以前はどのような正月の過ごし方をしていたのであろうか。
それはリッカも気になったらしく、リタ同様にルイーダを振り返った。
グラスを磨いていたルイーダは、過去の正月に思いを馳せる。

「え? あぁ……正月はいつも宿屋でどんちゃん騒ぎだったわね〜。酒飲んでお節料理つまんでお喋りして酒飲んで酒を飲んで……って、ほとんど宴会みたいなものだったけど」

とりあえず、酒ばっかり飲んでいるのが気になった。

「……って、今年はリッカもリタもカレンもいるし、それやらないから大丈夫よ。安心してちょうだい」

「「…………」」

一瞬不安になりかけたリッカとリタであった。

「正月ってのは……まぁ、基本的には日の出を拝むものなんじゃない? 初日の出ーとか言って」

「そういうものですか」

なるほど、日の出は確か、天使界で見るものと人間界で見るものとでは全く違う風景になると聞いたことがある。

「そうそう、アルティナは毎年お正月にいなくなっちゃうのよ。初日を見に行くって……しかも一人で。全く、お正月は皆で楽しむものなのに、アイツってば」

「そうなんですか……」

はぁー、と溜息を吐くルイーダ。「最初っからああだったのよ」と愚痴ったところで気になっていたことを聞いてみる。

「そういえば、ルイーダさんとアルティナって、どういう経緯で出会ったんですか?」

「私とアルティナ? あー、それがね……アイツ宿の前で行き倒れてたのよ」

「「……へ?」」

リッカとリタの声がキレイに重なった。

「ボロボロのボロ雑巾よろしく転がってたから何事かと思ったのよね〜。とりあえずこのままじゃ危ないってことで急いで宿に引きずり込んだわけよ」



『あら、目が覚めた?』

『……ここは、』

『アンタが倒れてた目の前にあった宿屋兼酒場よ。何があったかは分からないけど、随分ボロボロだったから中に運んで今に至るってわけ』

『……ほっといてくれて良かったのに』

『あ・の・ね・ぇ』

いきなりドスの聞いた声に変わったルイーダにアルティナはビクリと肩を震え上がらせた。雰囲気そのままっていうのが更に恐い。

『アンタがあんなところで行き倒れられちゃあ、元から少ないお客様が更に少なくなるのよ立派な営業妨害なのよ分かる? 分かったら謝罪すると共に感謝なさい、このすっとこどっこい』

『……それはどうもスミマセンデシタ』

勢いに押されたアルティナは、普段使うことない丁寧語などで謝罪する。なんだか敬語を使わないと取って喰われるような気がしたから、と後に感想を残している。

『片言なのが気になるけど……まぁいいわ。アンタには慰謝料としてここに居座ってもらうから!』

ルイーダはビシィッと指差し、宿に残れ宣言をした。この女性の思い切りの良さは、いっそ清々しい程スッパリサッパリしているものだった。

『……はぁ?!』

『その様子から見るに、アンタ、帰る場所無いんでしょ? 私の目はごまかせないわよ!』

実際その通りだが、何を根拠に。

そう言うと、ルイーダは嬉々としてガッツポーズを決める。

『やっぱり! じゃあ、この名簿に名前記入お願いね! 少しは顔の良い新入り! 少しは顔の良い新入りでも入れば客も多くなるはず、店の存続も有り得るわ! あー、良かった』

『…………』

もしかして自分は良いように使われただけなのではなかろうか、とこの時思ったが時すでに遅し。
こうして、アルティナは酒場の名簿に名前を登録するに至ったのだった。



◆   ◆   ◆




「こんなとこにいた、アル!」

「……リタ?」

どうしてここが分かったのだろうか。ルイーダにはこの場所のことは話していないはず、ならば……

「えへへ、デュリオさんに聞いてきちゃった」

……やはり。

どうやら、あの口の軽い兄貴分がまたベラベラと喋ってくれたらしい。とりあえず後でシメることにしよう。

アルティナが心の中で決心すると、リタは幹や節に手をかけ足かけ木によじ登ろうとしていた。が、上手くいかず苦戦していている。内心ハラハラしながら見守っていたが、いい高さまで登ってきたところでずり落ちそうになって、慌てて手を伸ばしていた。全く心臓に悪い。

「ったく、何やってんだお前は……」

相手の手首を掴み引っ張り上げると、思いの外容易に持ち上げることが出来た。予想以上に軽い。

「め、面目ないです」

「全くだ」

返す言葉が無いのかリタは「うぐ、」と言葉を詰まらせた。
別に腹を立ててるわけでも無いし、更に縮こまりそうなので、それ以上言うのは止めておく。自分はそこまでサドじゃない……と思う。

「わぁ、いい眺めー」

この木の上からは、カラコタが一望出来た。今は夜だから、明かりがポツポツと見えるだけだが、昼は町の端に位置する橋まで見えるのだ。

「アル、ルイーダさんがアルティナはいつもお正月はどっか行なくなっちゃうって残念がってたよ」

「…………」

どうやら口が軽いのはデュリオだけではないらしい。

「いつも一人で日の出見てるって聞いてね……来ちゃ、迷惑だった?」

「別に、気にしない。一人で見たいわけじゃないんだが……初日の出はここで見ると、約束したんだ。アイツと」

今は亡き、悲惨な運命を辿った相棒。ここで初日を一緒に見たのは一度きりだった、けれど。約束したから。




『キレイだね……来年も、ここで初日の出を見れたらいいなぁ』

『だったら、また来ればいいだろ来年』

何で来年来れないみたいな言い方をするんだ、と言うと相手は苦笑でもって返した。……もうここに来れないことが分かっていたのかもしれない。

『……そう、だね。じゃあその時はまた一緒に来てくれる?』

『当たり前だろ……ってか俺は毎年ここで見てんだよ』

『あ、そうだったね』

何がおかしいのか、くすくすと笑う。何で笑うんだよ、とつっけんどんに聞いたけど相手はただ笑うばかりで。

『じゃあ……約束だよ、アルティナ。来年も、これからも、また一緒にここに来て初日を見よう』




「……約束だと言った本人が約束破るとか、どういう了見だよ」

そして、約束だと言っておきながらそれを破る気満々だったアイツは、今さらだがかなり性格が悪い。

きっと、自分が死んでもアルティナは毎年毎年この場所に来るだろー、とか思っていたに違いない。というか実際来ている。

死んでしまったアイツには、一生勝てそうに無かった。

「……じゃ、今年からは私も一緒に見る!」

ずっと黙っていたリタが座るなり、いきなりこう宣言した。

「……は?」

「だから、私は毎年ここで初日を見るって言ってるの。止めてもムダだからね! 羽とわっかが復活して天使界に戻れたとしても、毎年ここに来るから!」

リタの意志は固い。

この優しい天使は事情を知ってからというものの、それに関することに何が何でもとことん付き合うと決めたらしい。旅に同行してくれたお礼、とか思っているのかもしれない。別に、そんなことする必要は無いと思っているのだが、なかなか言い出せなかった。というか、言いたくなかった。

「なるほど、つまりお前は俺と二人で年を越したいと」

「んなっ……何もそこまで言ってるわけじゃ……!!」

「そうなるだろ実質的には」

「そ、そそそうかもしれないけどっ……。っていうかアル、何だか最近意地悪くない?!」

「気のせいだろ」

さらりと言ってのける。と恨めしそうに見上げてくる相手に、自然と笑みがこぼれる。

……案外に楽しいかもしれない、と思う自分はやはりサドなのだろうか。

「……あ、日の出」

「えっ、本当?!」

東のビタリ山の端から漏れる、年明けの光。

じわじわと昇るそれを見守る人間と天使。

「アル、明けましておめでとう!……って人間界では言うんだよね?」

「ああ、まぁ……おめでとう」

おめでとうとか言うの、いつ以来だ。

そう思いつつ、来年も再来年もこの場所に付き合ってくれるらしい天使に感謝をしながら、日の出を見送った。




冬生さん宅の1stパーティの年越し。

リタちゃんの天然は此処でも健在ですね!可愛いです(*´艸`*)

リンクさせて頂いているので、詳しい設定等はそこでお願いします。

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