Cendrillon−07















HEROとは孤独だ。
と、誰かが言った。
本当の正義は己の中にあるもので他者を顧みるものじゃない。だから、理解される事を求めてはいけない、と。
愛と勇気だけが友達だ?
んなことねーよ、と俺は言いたい。
そりゃまぁ活躍の場を競ったり、ポイント最下位と罵られる時があったり、スポーツドリンク勝手に飲んでペットボトル顔面直撃したり、賭けポーカーで年下にぼろ負けしたり、トレーニングルームへの差し入れのドーナッツは毎回奪い合いだったりするけれど。
仲間なんだよな、やっぱ。
だから、一人じゃない。
絶対に、孤独じゃない。






「はー…また、大変な事になったな」
「かわいい!そして、かわいいっ!」
「わっ、わっ。本当にタイガー?うわー、胸おっきい!」
「………(おろおろ)」
俺の意向は完全無視でバニーに引きずられたトレーニングルームにはいつも通りHEROの面々が勢ぞろいしていた。そして、それぞれ個性あふれる反応を見せてくれた。
平日の昼過ぎと言う時間から学生であるカリーナは居なかったが、他のヒーローは昼飯を終えたばかりだと言うのに元気にトレーニングに励んでいた。皆お仕事に真面目なんだから…
「本当に女になっちまったんだな…」
横と言うより頭上からアントニオの声。昔からほぼ変わらぬ身長差で同じ位置から聞こえていたのに、と縮んだ身長を改めて自覚させられてちょっと悔しかった。同じように上から覗き込むように顔を向けるのは我らがKOH・スカイハイ。何がそんなに面白いんだか、ニコニコと本当に楽しそうに笑みを浮かべてくる。
「なんだかワイルド君がちっちゃいな!すごく新鮮だ!それに普段とは違う匂いがする」
犬かよ。
「とても良い匂いだっ!」
つっこみを入れるのもためらわれる様な満面の笑みを浮かべるので、黙って顔を見返すだけにした。ちょ、バニーちゃん手を握りこむなっ痛い。
犬と言えばくるくると俺の周りを回りながら好奇心に満ちた笑みを浮かべてくるのはドラゴンキッド。何故か一緒に折紙も回ってる。
「わー…本当に女の人だ…すごいな」
そう言ってむにゅり。
「っ!?」
何の躊躇いもなく、ちょっと女性独特の脂肪…もといふくよかさが出た股関節あたりを後ろから両手で掴むドラゴンキッド。そのまま腰へ腹へと上へ上へ手が伸びる。
「ちょ、ドラ、ゴ、…っキッド!!変なとこ触るなっ!」
「えー、だって柔らかくって気持ちいいんだもん」
胸に伸びそうになった(下乳は確実に触られた)ドラゴンキッドの手首を掴みギリギリの所で止める。
あぁ、もう女同士の遠慮のなさって怖いっ!ってこらバニー、何鼻を押さえてる。
俺の大声にビビったのか正面いた折紙がビクリと肩を震わせて動きを止める。可愛そうなほどこの状況に焦っている。ある意味一番正しい反応だ。
だがそのおろおろと言うか、普段より数割増しで挙動不審な様子はどうも俺だけが原因と言うわけではない様で…そこで折紙の着ているTシャツの裾が伸びている事に気づく。その先は黄色い少女。どうやらさっきまで一緒にくるくる回っていたのはドラゴンキッドに裾を掴まれていたからのようだった。
振り回されちゃってまぁ………あー、青春だね、うん。
「まったく、まるで磁石みたいにタイガーに集まっちゃって。妬けちゃうわ」
そう言うネイサンはもう慣れた様子と言わんばかりに一歩引いた位置でたたずんでいる。と言うか、この状況を客観的に見て楽しんでるだろ、お前。
「あー、もうっ!まとわりつくなよお前らっ!」
えぇい暑苦しい!とばかりに団子状態になった皆の輪から何とか抜け出す。
「笑い事じゃないんだぞ!この状況!一歩間違えばお前らがそうなってたかもしれないんだし!」
此処にいるHERO全員が先日現場にいた。誰が窃盗犯と顔を合わせていたか判らないのだ。もし自分がそう言う状況になれば、と想像を働かせれば少しは神妙な心持にもなるだろう。
そう思ったのだが…
「私が女性に…?その場合はQOH!クイーン・オブ・ヒーローと呼ばれるのだろうか!」
「あらぁ、別にアタシはどっちでも構わないわよ。性別なんて細かい事、アタシには何の障害にもならないもの」
「僕男の子になってみたい!そしたら試してみたい新技がたくさんあるんだ!」
……ノリノリじゃねーかよ。おい。
あぁ、だが一応アントニオと折紙は顔を青ざめさせてる。うん、それがまともな反応だよなっ。
「…まぁ、と言う事で俺としては一刻も早くそのNEXTを捕まえたい訳だ。その為にもぜひお前らに協力してもらおうとだな、作戦会議をしに来たっ!」
「作戦会議?」
いつまでもこいつらのペースに合わせると雑談で時間が潰れちまうと判断した俺はちゃっちゃと仕切る事にした。
「その場合髪型はロングにした方がいいんだろうか」
「はい、KOH。その話題いつまでも引っ張らない」
未だ自分の変身(?)に期待と想像を膨らませているスカイハイは放っておいて、ちゃっかり斎藤さんに頼んで置いた今回の事件のデータをまとめプリントアウトした物をテーブルに並べる。機械関係以外も仕事速いぜ斎藤さん。
「過去数件の事件発生直後の映像だ。監視カメラのを無理やり引き延ばしたから画像は荒いがきちっと犯人が映ってる」
数枚の写真は階段の上から犯人達の頭部を映したもの。もう数枚は吹き抜け越しに彼らが走る様子を映したもの。そして最後に現場に居合わせた客が携帯で撮ったであろう至近距離での後ろ姿。
「素顔を晒してる割に、カメラには顔は映って無いのね…残念だわ」
「えぇ、店内のカメラの位置は完全に把握してるようです。次は新しい隠しカメラの設置を、とデパート側は考えている様ですよ」
「服は…特に変わった所は無いですね。特徴から言ってこっちの二人は男で、一人は女の人…でしょうか?」
「ぇ、でもこっちの写真だと女の人が二人じゃない?ほら、走り方が違うよ。こう言う走り方って男の人しないよね?」
「常に一定の距離で固まって逃げてるな。バラけた方が逃げるには効率いいだろうに…」
「ずいぶんと大きな鞄を持っている様だね。彼らは一体何を盗んでいったんだ?」
吃驚するほど意見が出た。
そういや俺たちが普段相手にするのは現行犯とかそういう奴ばっかでこういう風に敵の動きを予想して考える事なんて今まで無かったかもしれない。ただでさえポイントを奪い合うライバルと言う形で仕事をしてるのだ。顔突き合わせて相談なんてした事ねぇ。
「タイガー君?」
スカイハイの少し心配そうな声にハッとなる。
「ぇ?あぁ、いやなんか予想外にまともな会議になったもんだから…オジサンびっくりしちゃった」
「何言ってるんです。全部貴女の為でしょう?あと今はオジサンじゃなくてオバサンですよ」
つっこみ細かいぜ、バニー。
「そうだよ。僕たちタイガーには早く元に戻って欲しいもん!」
ドラゴンキッドが可愛い事を言ってくれる。ちょっと泣きそうオジ…じゃなくてオバサン。
「いつまでもそんな状態じゃ、俺達も落ち着かないからな」
流石親友!
「それに、こういう会議って少し憧れがあったので…楽しい、でござるよ?」
恥ずかしそうにアントニオの陰に隠れながらはにかんだ様な笑みを浮かべる折紙。うん、お前も可愛い。もういっそお前俺の養子にならないか、とか口走りそうになった。
「今回HEROが出てしまった以上、窃盗犯は次の行動に慎重にならざるを得ないだろう。その分こちらが作戦を練らなければ」
ぐっと意気込むスカイハイは頼りがいのある、まさしくHEROの顔をしていた。
「そうね。それにもし次失敗したら犯行自体が停まってしまうかもしれないわ。そうなったらタイガーが戻れなくなっちゃう」
私アナタの脚結構好きなのよ、と鳥肌が立ちそうな一言が余計だネイサン。
だが皆も同じ意見であった事が何よりも嬉しく心強い。熱い想いがこみ上げてくる。
「あ、ありがとなー!もー、お前ら大好き!」
がばっと手を広げて抱きつく。ぎゅーぎゅーとひっつく腕の中には苦しいだとか痛いだとか笑い交じりの苦情が漏れる。
HEROってのはこういうあり方もあるんだぜ。なんとかレンジャーとか、昔テレビの前でかじりついてみていたもう一つのヒーローの姿が頭をよぎる。
色とりどりで賑やかで、派手でかっこよくて。
俺、HEROやってて良かった!





「…何やてるのよ。肉団子?」
感動に打ちひしがれている中僅かな空気音と共に曇りガラス製の入口が開かれる。
そこにはトレーニングウェアに着替えたカリーナが何か顔をひきつらせて固まっていた。
まぁ、入ってみたら皆がガシッとひとまとめに抱き締められてたら、そういう反応しても仕方ないと思う。
「あれ、ブルーローズ。学校は?」
俺の腹のあたりでドラゴンキットがくぐもった声をあげる。ちょっ、そここそばゆい。
「今日は職員会議で授業は午前だけ…で、何その暑苦しいの」
声が完全営業モード、ドS女王様の呆れ声だけど気にしない。
「良し、ブルーロース!お前も混ざれ、こっちこいっ!」
「はぁ!?い、いやよそんなの、恥ずかしいっ…///」
「そうだ、みんな仲良しの方がいいっ!その方がハッピーだっ!」
スカイハイが同意し、一歩踏み出す。体の大きなスカイハイが動けば自然と塊全体も前へと進む。そしてこういう大きな物は、大抵動きだすと止まらない。
「あらヤダ、ちょっと危ないわよ」
「っ!?バランスが…」
「お前今どさくさに紛れて揉んだろうっ!」
「わっ、わっ、わっ…」
「つ、つぶれるでござる〜…っ!?」
ぐらりと揺れて巨大な影がブルーローズを包み込む。
その後は悲劇…と言うか喜劇。

ぐわっしゃっ


派手な音と共に全員がブルローズに向けて倒れ込んだ。
「何、なんなのよー、いったいっ!」
声高な悲鳴が己の下から聞こえたので慌てて上半身を起こす。向かい合う形で倒れるブルーローズがゆっくりと目を開ける。
「大丈夫か、おい!」
「………っ!!///」
慌てて怪我が無いか腕や足に目を走らせる。よかった、怪我はしてない様だ。こいつの衣装露度命な所あるからなぁ…
そこではたと今の状況を改めて認識する。なんか押し倒してしまったかのような体勢だが…問題無いよな、俺今女だし。
ブルーローズの顔が赤い様な気もするが…
「…っ最っ低!!!」




パチーン






「なぁ、バニーちゃん。何で俺殴られなきゃいけないの?」
「(乙女心を理解しなかったからじゃないですか…なんて言ってやらないけれど)さぁ…思春期、ですかね?」
床に投げ出された身を起こしながら応えるバニーと一緒に、もう一度ロッカールームに勇み足で戻るブルーローズの背中を見送った。
8人揃ってHEROレンジャー…の夢は、どうも遠そうだ。




















(…皆楽しそうに何やってたのよ、っていうか何でオバサンの時なのもったいない、ってか、アイツ、あたしより断然大きかったっ…!)








色々ショックなカリーナちゃん。
すいません、ほんのりと虎薔薇要素が混じりますが間違いなく兎虎ですこの話。



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