Cendrillon−03




「って訳で、頼まれたからには手は抜かないわよ!」
「そうね。せっかくだからキュートでセクシーにしてあげるわ。ハンサムもメロメロなぐらい」
上と下から妙に気迫の入った目で見つめられるこの状況…一体何言ったんだ、バニー…







今朝はインターフォンの音で目が覚めた。
布団の中で丸くなっていた虎徹は突然の呼び音に慌てて時計を見るがまだ起床予定より30分も早い。今日は休みなのにー、と寝起き特有のかすれた声をあげ身を起こす。
この家に出入りする人間は極端に少ない。楓や母ちゃんと言った家族には家の大まかな場所しか言ってないし、同じ職業のヒーロー連中の中にもこんな早朝に訪ねてくる奴なんて思い当たらない。もしやご近所さんの早朝攻撃?とふらふらと寝ぼけ眼で訝しげに玄関の扉を軽く開いた。
「あらやだ、本当に女の子。でもいくらなんでもその格好は無防備すぎるんじゃなーい?」
「うわ、信じられない!タンクトップ一枚にトランクスって…普段この格好で寝てるって事?だらしないわねー」
「ぇ、へ……は?」
低いくせに妙に艶のある声と若々しいが棘のある声。どちらも非常に聞きなれた声だ。だが今この場所で聞くとは思わなかったので一気に目が冴える。
「って、ネイサンにカリーナじゃねーか。なんだよこんな時間に」
「いいから。さっさと中に入れなさいよ。人に見られちゃまずいんでしょう?」
ぐっと押し込めるように室内に戻され同時に目の前の二人も室内に入る。パタン、と軽い音と共に扉が閉じられたが虎徹の混乱は収まらない。何でこの二人が、という目で交互にみやりしきりに首をかしげている。
その様子にため息交じりにネイサンが説明する。
「昨日の状況は聞いたわ。一応ヒーロー全員にアナタの今の状態は伝わってる。で、今日はあのハンサムに頼まれたのよ。『オバサンの格好をどうにかしてください』って」
「…はぁ!?」




事は昨日、バーナビーが虎徹を家に送り届けた後に戻る。
目前で玄関の扉が閉じられほっと一息ついた所でずっと携帯の確認をしていなかった事を思い出す。会社からの緊急事態は腕の通信機にかかってくるが事務的なメールが届いてるかもと開いた瞬間、その着信と受信メール数に絶句した。
主な内容は『虎徹はどうなったのか』というヒーローたちからの状況説明を求めるものだった。
―――そういえば、オジサンが倒れた事は全員が知っているんだった…
衆人環視の中でワイルドタイガ―は倒れたのだ。公式では疲労が原因だが大事ない、という発表はされているが同じ現場で戦うからか、他のヒーローは仲間意識が妙に強い。心配で仕方ないのだろう。
きっとおじさん本人の携帯にもすごい数の連絡がきてるのかもしれない。
『タイガー君は大丈夫か?』
『余裕があれば連絡頼む。虎徹の奴携帯あんま見ないから』
『特製忍者食が必要でござろうか』
『連絡回しなさいよ!』
…等々。タイトルを見ただけでもだれからか判る様な個性的な文面が並ぶのをみてつい苦笑を浮かべる。人気者ですね、オジサンは。
即座に一斉送信で場所と時間を指定したメールを送る。とてもじゃないが文章でこの状況を説明できる自信が無い。かといって黙ってる訳にもいかない。それに問題は山積みだし、せっかくなので協力してもらおう、と。


「……マジ?」
「マジもマジ。大マジですよ…残念な事にね」
日も沈みかけた頃いつものトレーニングルームに顔をそろえたヒーロー達に事の次第を一から説明したバーナビーは信じられない、と仰天する彼らの顔をため息交じりに見まわした。
「そ、それでバーナビー君。タイガー君は、タイガー君は…」
いっそ哀れに思えるほど動揺したキング・オブ・ヒーローを見てかえって冷静さを取り戻したバーナビーは落ち着いてください、と声をかける。
「あの人も順応性が高いというか、深く考えていないようなので即座にどうこうって事はなさそうですよ。それより問題なのはこれからの生活ですよ。自覚も無しにふらふらされたら新たな犯罪呼びますよ、あれ」
妙に感情のこもった声でそうつぶやく。
「そうよね、女の子って男と違って色々物入りだし…あのタイガーじゃきっと何にもわからないんじゃない?」
「聞く限りじゃ服からなにから一式必要そうだしな。虎徹の奴、娘の服すらろくに選べないんだが」
「…しょうがないわね」
スッとカリーナが立ち上がる。
「仕方が無いから、私が面倒みてあげるわよ」
ふん、といかにも不本意と言うように腕を組んでいるがその場にいる面々の鋭い方約半数はその裏に隠された真意に気付いていた。
『『『心配なんだろうなぁ…』』』
カリーナの不器用な優しさは場を和ませた。
「オジサン…もといオバサンは明日は大事を取ってオフです。申し訳ありませんが、お願いします」
「私も一緒に行くわ、荷物持ちとアッシ―がいた方が何かと便利でしょう?」
カリーナの肩に手を置きにっこりとネイサンが付け加える。いくら今は女になってると言っても男やもめの家に女子高生一人を送り出すのは心配なのだ。
「あぁ、ついでと言っては何ですが少しお願いがあるんですよ」
そうと決まれば明日は早いわよー、と意気込む二人にバーナビーが声をかける。
何でもない事のように、本当に物のついでの様にさりげなかったが…



時は戻り虎徹の家。リビングのテーブルの上に置かれた酒瓶や雑誌を押しのけドンと置かれた長期旅行用のスーツケース。ぱっと留め金を外すとどうやってそこまで詰め込んだんだと言うほど大量の服があふれだしてきた。
「な、な、な…なんだこりゃ!?」
「何って服よ服。あなたそんな恰好じゃ一歩も外でれないでしょう?ほとんどアタシのお古だけどサイズは大丈夫なはずよ」
「サイズって…どうやって知ったんだよそれ。自分で言うのもなんだが結構変わっちゃったぞ、俺」
中からオレンジ色のカットソーを広げたネイサンに虎徹は少々言い難そうに話す。一応昨日風呂に入ったのであっちこっち点検済みだ。自分の体であるにもかかわらず妙に後ろめたいというか、罪悪感を感じたが一応どこがどう変わったか把握しておきたかったのだ。ついでに合う服も探したがなかなか見つからなかった。だからこそ寝間着はタンクトップと下着になってしまたのだ。
「大丈夫よ。ハンサムが教えてくれたから」
「バニーがっ!?なんだよそれ。なんであいつがそんなの…!」
「えーっと確か…サイトウさん?に聞いたらしいわよ。もしかしたら僕が買いに行かなくちゃいけなくなるかもしれないから、って。スリーサイズから肩幅までばっちり暗記してたわよ。彼ねぇ、カリーナ?」
「っえ!?…えぇ、確かそんなこと言ってた様な言って無かったような…」
虎徹の家の室内を見て回るのに夢中になってしまっていたカリーナが慌てて答える。話は半分ほどしか聞いていなかったので返事は適当だが。
「なんだよアイツ、知ってるならあいつが服買ってきてくれりゃいいのに…」
「あらー、それはいくらハンサムでも酷ってものよ」
「へ?何で」
服なんてそこらのスーパーで適当に見繕ってくりゃいいだろう、といかにもオヤジ丸出しなファッションセンスの欠如した事を述べる虎徹にネイサンが心底かわいそうなものを見るように溜息をついた。
「想像してみなさいよ。女性下着を彼に買わせるのよ?しかもあなたのそのサイズ…」
目線の先はいささか豊満すぎる虎徹のバスト。可愛らしい女性下着の専門店ならともかく(ってそれはそれで十分怪しいが)、きっと婦人用の、中でも特別大きいサイズを見つろうバーナビー…ファンには見せられない。
「いっくら美形でも店員さんの顔が引きつるに決まってるでしょうが。可愛そうなこと言わないの。かわりに…」
ふっとピンク系のルージュで見事に彩られた唇が弧を描く。
酷く魅力的だが一部の人間には嫌な予感を感じさせる、そんな笑みだ。
「アタシがとびっきり素敵なのを選んでア・ゲ・ルv」
ゾワッと背筋を走ったその冷気の意味を、その時の虎徹は知る由もなかった……







(どうなっちゃうんだろうなぁ、俺…)










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鋭い方→ネイサン(おねぇの感炸裂)、アントニオ(嫌だけどなんとなくわかっちゃう、的な)、バニー(常識の範囲内なら判る)
鈍い方→キース(にぶちん筆頭天然炸裂)、イアン(判らない事は素直に聞く子)、ホァン(判らない事は素直に聞く子)、虎徹(壊滅的に鈍すぎ)
ちなみにカリーナも普段は鋭い方だと思います。
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