Cendrillon−00




その日の敵は3人組の窃盗団だった。
人の多い休日のデパートをわざわざ狙う妙な窃盗団。宝石店のショーケースを景気よく叩き割り中の貴金属をそのデパートの紙袋に詰めて走り出すという何とも雑な手口。盗難現場はもちろんあっという間に警備員に見つかる。だが、捕まらない。何故か人混みに紛れた犯人はいつの間にか警備員の前から姿を消している。監視カメラを追っても途中までは確実に映っているはずなのに煙の様に消えてしまう。
「なーんかオカルトじゃねーか。それ」
「現実として被害届が出てるなら単なるポイントのチャンスです」
今までの犯行経歴から次回の発生場所、時間帯を予測が立てられた。その指示によって本日ヒーローは全員休日出勤。バーナビーと虎徹も共に予測地点付近であるデパートの屋上で待機命令を出されていた。
すぐ出れるように、とヒーロースーツを着たまま待機だ。結構疲れる。
コンピューターの発生予告なんぞは半信半疑どころかまるっきり信じる気がない虎徹は飽き飽きとした態度で暇を持て余していた。
マスクを上げてバーナビーに意味の無い言葉を投げかける。対するバーナビーは相変わらずそっけないが一応言葉を返す。その繰り返しに飽きてきた頃犯罪発生の連絡が警備員から届く。
予測時間からそう外れる事なかった事件発生に虎徹は軽く口笛を吹き、二人は屋上から階下への階段を走り降りる。
階下は人の海だった。
「おい、こんだけ人がいるならヒーロースーツ脱いだ方が動けるだろうがっ!」
唾を飛ばして文句を言う虎徹。
「ヒーローショーの一環と思って下さい。スポンサーの意向です。あと、マスクしてないと正体ばれますよ。人目が多いんですから」
「こんなごちゃごちゃした所、カメラ越しで見れるかっ」
バーナビーの言葉を無視しスーツから顔を出したままきょろきょろと周りを見渡す。その姿は少々滑稽だ。
だが、広い視界のおかげか一階から最上階までを貫く吹き抜けの中、二階下を走り抜ける犯人の黒い服を見つける事が出来た。虎徹が手すりに足をかける。
「オジサン、今日はワイヤー禁止ですよ」
「…っ判ってるよっ!流石にこんだけ人がいる所で使ったりするかよ」
うっかり取り出しかけたワイヤーアンカーを慌てて仕舞う。今日は休日で家族連れが多い。何かを壊せば確実にその被害は子供にいくだろう。
手すりから身を乗り出し握力だけで体を支え一つ階下に身を降ろす。
視界の端にちゃっかり子供(とその母親)に手を振っているバーナビーが写る。
―――愛想ふり撒く前に犯人確保、だろ!
未だポイントゼロな自分を棚に上げて心の中で文句を言う。
確かにテレビのポイントも重要だが『生』でヒーローを見た感動は根強い人気につながる。こんな絶好の機会滅多にない。子供に感動を与える…ヒーローの仕事としては華だ、華。ちょっとバーナビーが羨ましくもある。
少しはカッコいい所を見せたい。そう思ってしまったのが不運の始まり。
「やいやいやいっ!この俺たちから逃げられると思ってるのかよっ!」
太い柱に手をかけたまま滑り降り、自分でも吃驚するほど華麗に犯人の眼前へと躍り出る。
どうだ、決まったろう。
そう思った瞬間目の前の犯人の体が蒼く発光し始めた。
かざされる手。
―――NEXT!?
事前情報の無かった事。マスクを外してしまった事。不用意に近づき過ぎた事。不幸が重なった。
意外にも素早い動作で額に一瞬だけ触れられる。
「はぁっ!」
横から見事な飛び蹴りが犯人の腹に飛んできた。
「バニー!」
「何やってるんですか、オジサン!」
バーナビーの叱咤に気を取り直しマスクをつけ犯人を目で追う。人波を駆け抜ける犯人の姿。もう絶対逃がすもんか、そう意気込んだが…
「説教は後だ後。右の通路に逃げ、て…っ!?」
体温の沸騰を感じ、次の瞬間激痛が走る。
立っていられない。
「オジサン!?」
虎徹ことワイルドタイガ―の武骨な体躯はその場で崩れ落ちた。





「斉藤さん、オジサンに何が…」
「………(わからない。生体反応には今の所問題が無い。しかし…)」
意識が浮上したのはスーツを乗せた社の車の中。普段はテーブルの置かれたこの部屋は緊急時斎藤さんのラボに変形ロボの勢いで早変わりする。
中央にスーツのまま寝かされていたようだ。
「バ、バニー…斉藤、さん…?」
声の方に顔を向ける。
「!」
「………(意識が戻った様だね。動けるかい?)」
「あ、あぁ…」
何故か体の節々が痛かったが何とか動く。が、普段よりもずいぶん体が重い。
腕どころか肩の力も総動員してようやくマスクを外す。
「…ったく、一体何があったんだよ」
「…」
「………」
「ぁ?なんだよその間抜けな顔は」
ポカーンとしたバニーの顔。驚いた斎藤さんの顔。
「一体何が…へっ!?」
体を起し立ち上がろうと床に足をつけた瞬間ずるりと下に落ちる感覚。
「な、なんだ一体!?」
足が地につかずそのままひっくり返る。何これ、股が痛いっ!?
「………(スーツが大きくなった様だね)」
「はぁ、スーツの膨張率高すぎて戻らなくなったのか!?」
「………(君のクソスーツと一緒にするな。違うよ)」
呆れたように語った後、興味深そうにまじまじと顔を寄せてくる。何、斎藤さん顔近いよ。俺まだ床に寝ころんだまんまなんだぜ?
その後ろで未だ茫然としたバーナビーの声。
「…縮んだのはオジサンですよ。いや…」
バーナビーが虎徹のヘルメットに手をかける。戦闘中簡単には脱げないようになっているはずなのにやけにあっさりと、ポスンと抜けた。
その顔をまじまじと見た後疑問口調で耳慣れない呼称を口にする。

「オバサン?」






(ぇ、ちょ、何この状況。とりあえず起してくれない?)






にょた部屋開通。
合言葉はNEXT能力って便利だよね!です。
連載は短めの話を並べる予定。


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