「こいつで最後、藤槍っ!」
私の撃った心弾が鎧虫の隙間に入り、ついに最後の鎧虫をやっつけた。
「何とか…なった…かな?」
肩で息をしながら、大量にできた鎧虫の残骸を見る。これの半分ぐらいは私がやったんだ。あ、レイラが私の所まで戻ってきた。
「レイラ、お疲れさま…。少し…休もうね…」
すっかり疲れてしまった様子の彼女に声をかけ、重たい足を動かしていく。ラグが眠る洞窟の出入り口まで辿り着いて、私は岩にもたれるように座り込んだ。
「はあ…はあ…」
息を整えていると、ふらふらと歩いてくるゴーシュとロダの姿が見えた。ゆっくり歩いてきて、私の隣に座ったので声をかける。
「ゴーシュも、お疲れさま…」
「お疲れさまです、リーシャ…」
ゴーシュが疲れた声で答えて、私の肩にこてんと頭を預けた。肩にかかる重みに、幸せを感じながら目を閉じる。
「ゴーシュ…、リーシャ…」
うとうとと眠りかけた私の耳に、ラグの声が聞こえたような気がした。
翌日、私達は山道を黙々と歩いていた。
「ねえ、ヘッドビーって何?」
突然のラグからの質問に、前を歩いていたゴーシュと一番後ろを歩いていた私の足が止まる。ゴーシュが顔だけ振り向かせて、ラグを見た。
「昨日の僕の心弾で、何か見たのですね?」
「ねえ、教えてよ」
「ヘッドBEEは我々BEE、テガミバチの最高称号者ですよ」
「テガミバチの大将ってこと?」
ラグの予想外な捉え方に、私は思わず笑ってしまった。なんか、ガキ大将みたい。
「大将?ええ、まあ…。彼に運べないテガミはないと言われてますからね」
最初はきょとんとしていたゴーシュだったけど、やがてその顔に笑みが浮かぶ。いつかヘッドBEEになるのが彼の夢。もうすぐ、その夢に一歩近づくから嬉しそう…。
「現在、ヘッドの称号はただ一人。ヘッドは政府の重要な配達以外は首都勤務ですから、僕もまだお目にかかった事はありません。僕達、テガミバチの憧れかな」
「ふーん」
ラグは返事をしながら、すたすたと歩いてゴーシュを抜かしていった。それに続いて、私もゴーシュの隣まで歩いていく。
「他に何も、見てませんよね?」
恐る恐るといった感じに訊いたゴーシュに、振り返ったラグがにぃーっと笑った。うわー、すごい笑顔。あれは絶対、何か企んでるよね。
「何ですか、その顔は!?」
滅多に見れないゴーシュの慌てた姿に、私はバレないようにくすりと笑う。
「シルベットって可愛いね。年いくつ?」
「7つです。そう言えば、ラグと同じ年…。あっ…まさか、妹の事まで!?」
はあ…と大きくため息を吐いて、ゴーシュは歩き出した。私も慌てて追いかけ始めた所で、ラグはさらなる爆弾発言をしてくれた。
「ゴーシュは、リーシャが好きなんでしょ?」
ラグの言葉に反応して、前を歩くゴーシュの動きがぴたりと止まった。ついでに、私も動きを止める。
「ねえ、いつから付き合ってたの?」
ラグはその質問をしてから、たたたっと前に走っていく。
「ねえねえ、チッスは?もうした?チッスは?おっぱいもみもみした?」
「やれやれ、これだから子供は…」
矢継ぎ早にされるラグからの子供らしい質問に、ゴーシュは苦笑いを零す。
私はというと、否定しないゴーシュに喜んでいた。これって、ちゃっかり肯定してるって事だよね?嬉しいな嬉しいな。
「なれるよ、ゴーシュはヘッドビーに」
「え?」
「パン屋のおばさんがいつも言ってた。イヤなヤツほど出世する、ってね!」
「ほ、ほう…」
引きつったようなゴーシュの声。たぶんきっと、顔も引きつってるんだろうな。そう思いながら、私は後ろから彼の制服をくいくいっと引っ張った。ゴーシュの顔を引き寄せて、耳元で話しかける。
「私は、ゴーシュが優しい事、ちゃんと知ってるからね」
そして、素早く彼の頬にちゅっとキスしてから、ラグの方へと走り出した。
「ラグ、ちょっと待ってー。昨日の心弾でどんな場面見たか、ゴーシュには内緒で教えてくれる?」
「リーシャ!?」
後ろから聞こえるゴーシュの慌てたような声に、私はくすくすと笑うのだった。
その日の夜。私のスープを食べたラグが、ふぁーとあくびをしながら私達から離れた所で横になる。
「………」
その姿を寂しげに見つめるゴーシュは、無言で自分のスープをぱくりと食べた。
「おやすみなさい、ラグ」
私は返事がなくても、ラグに声をかける。誰かの挨拶があると、それだけで嬉しいからね。
「ゴーシュも声かけたら?」
「僕はいいですよ」
私が提案してみても、ゴーシュはやんわりと遠慮する。昨日の時はちゃんとおやすみって言ったのに。まあ、いいか。
「私も先に寝るから、火の後始末よろしくね。おやすみなさい、レイラ、ゴーシュ、ロダ」
みんなに挨拶して、私はごろりと横になった。山道を歩くと、やっぱり疲れるね…。
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2010.10.15 up