「全く…。心弾を撃ったのですから、少しは配慮してくれませんか?ラグ・シーイング」

ゴーシュを見ると、同じように頭を押さえていた。

「はあ?さっきのあのへんてこな銃がなんだってんだよ?」

不思議そうなラグの顔。心弾の事とか、何も知らないから当然なんだけど。

「硬い鎧に覆われた鎧虫には、普通の武器では通用しません。だから、テガミバチ達は鎧虫に対抗できる武器をそれぞれ持っているのです。僕のはこの心弾銃」

「私のはこれ。形は違っても同じ心弾銃なんだよ」

ゴーシュが心弾銃の夜想曲第二十番を取り出して、ラグに見せる。私も同じように、心弾銃のスケルツォ第四番を取り出した。付き合ってしばらくした頃に、ゴーシュの見立てで買ったんだけど、使いやすくてお気に入りなの。

「そして、これがその弾です」

空っぽの弾をラグに渡すゴーシュ。

「何これ?中が空っぽじゃん」

「そう、空です。実弾はありません」

彼は弾の中を覗き込むラグに、心弾銃の説明をしていく。

「どういうこと?」

「つまり、これらの銃に込めて撃ち出す弾は、僕ら自身のこころの欠片なのですよ、ラグ・シーイング」

「こころの、かけら?」

こころの欠片と言われても、きっとまだピンと来ないんだろう。よく分かってなさそうな顔をしている。私も最初に説明聞いた時は、すぐに理解できなかったんだよね。

「鎧虫を倒すには、その鎧の内側にこころを響かせる事が、唯一の方法なのです」

「でも、そんなこと…」

「僕の心弾銃にはめ込まれた黒い石と、リーシャの心弾銃にはめ込まれた藤色の石をご存知ですか?」

「これ、さっき光ってた…」

ゴーシュから心弾銃を受け取ったラグは、私の持つ藤色の精霊琥珀と彼の黒い精霊琥珀の両方を見比べる。

「遙かなる太古では、大地の霊的なエネルギーの存在が小さな虫に宿り、実体化していたと言われています。精霊虫と言われるその虫達が、エネルギーを持ったまま長い年月、樹脂などで閉じ込められ琥珀化したものが、その精霊琥珀という石なのです。僕らはその石が持つ力と銃によって、こころを武器として使う事ができるのです。ですが、こころというものは使うと減ってしまいます。食べたらなくなってしまう、この…」

長々と精霊琥珀の説明をした後、ゴーシュはりんごを食べ始めた。あ、いいなー。りんご、おいしそう。私も食べようっと。実は、今回の配達へ行く前に私も買っておいたんだ。

「あー、りんご!何で自分だけ食ってんだよ!?」

驚いてるラグを横目に、私は心弾銃をしまった後、鞄からりんごを取り出して、がぶりとかじりつく。うん、甘くておいしい。レイラにも一口あげなくちゃ。

「ですから、心弾を撃った後はこころが疲れているので…」

がぶっ、がぶがぶがぶ。

「わあああ!」

突然、ラグがゴーシュの食べていたりんごにかじりつき、あっという間に芯だけにしてしまった。そのかじりつきはとても見事なもので、思わずお見事と呟く。

「………」

ふとゴーシュを見れば、どよーんと暗い顔をして落ち込んでいた。よし、今こそ私の出番ね。

「ゴーシュ。私の食べかけでよかったら、一緒に食べよう?」

「リーシャ…」

はいとりんごを差し出せば、ゴーシュはとても嬉しそうな顔になった。私もそれを見て嬉しくなる。えへへ。

「さいきょーに感じ悪くなるわけ?」

ラグがかじり取った一口サイズのりんごをロダにあげながら質問してきた。

「何がですか?」

私のりんごをかじって、もぐもぐごくんと飲み込んだゴーシュが聞き返す。今度は、私がそのりんごをかじった。レイラにも、もう一口あげるかな。

「ゴーシュやリーシャのこころも、りんごみたいに全部食べちゃったらさ…」

ラグの言葉に、はっとするゴーシュ。その顔は、私が初めて見る表情を浮かべていた。どんな言葉で表現すればいいのか分からない。ただ、彼の暗い昏い瞳が印象的だった。まるで、目を離したらどこかへ消えてしまいそうで…。

「もしも、こころを全て心弾にして打ち尽くしてしまったのなら、…肉体だけを残して…ゴーシュ・スエードという人間は…消えてなくなってしまうでしょうね…」

「ゴーシュ…」

胸が締め付けられるようなゴーシュの声音を聞いて、私はただ彼の名前を呼ぶ事しかできなかった。

「大丈夫ですよ、リーシャ。僕はそうならないよう気をつけていますから」

そんな私に気づいたのか、ゴーシュが微笑みながら、私の頭を優しく撫でてくれる。それでも、胸によぎった不安は消えてくれなくて、私はゴーシュにぎゅーっとしがみついた。





2010.10.10 up
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