「ヨダカ地方南部714、コーザ・ベル3211。間違いなくこの辺りのはずなのですが…」

「でも、それらしい物なんて何もないよ?」

地図を片手に歩いていたゴーシュが立ち止まったので、私も同じように止まって彼の隣に寄り添う。

「それにしても、どうやらひどい火事があったようですね」

ゴーシュの言う通り、辺りはすっかり焼け焦げていた。焼け残った物は何一つ見当たらないぐらいに。

「クゥークゥー」

不意に、何かを見つけたらしいロダの鳴き声が聞こえる。そちらを見れば、レイラがここだよと合図をしていた。

「そんな所にありましたか。珍しいポストサインですね。火事の影響は…」

ゴーシュがロダに話しかけながら、そちらへ向かって歩いて行く。だけど、その途中で彼の足は止まる。

「どうしたの?」

「この子がテガミ…」

疑問に思った私の声が聞こえてないのか、ゴーシュは前を見つめたまま呟いた。彼の視線の先にいたのは、ポストサインから伸びる鎖に繋がれたアルビス種の男の子。今回私達が運ぶテガミだった。



「どうやら、ひどくこころを消耗しているようですね。回復心弾を撃たないと…」

「がんばってね」

今回のテガミである男の子――ラグ・シーイングを繋いでいた鎖を外し、彼の状態や配達用紙、切手料金を確認するゴーシュ。私はそんなゴーシュに向かって、にっこりと笑いながらエールを送る。

「そう言えば、リーシャは回復心弾を撃てないんでしたね」

ゴーシュが心弾銃を構えて、集中していく。精霊琥珀が光り出して、彼のこころの欠片がラグに撃ち込まれた。

「どうやったら撃てるのか、分からないんだもん…。しょうがないじゃない」

その光景を見ていた私は、ぽつりと呟く。かつて、回復心弾を撃とうとしてがんばってみたんだけど、どうしても撃つ事ができなくて、私には無理だとあきらめたのだった。

「さて、食事にしますか」

「そうだね。ご飯ご飯!」

眠り続けるラグを仰向けに寝かせてから毛布をかけ、私とゴーシュは缶詰のスープを食べ始める。

ちなみに、ゴーシュのスープは例の激しくまずいアレだけど、私のスープは違うよ。値段は高くても、味がいいものを買って持ってきたの。さすがに、たくさんは買わなかったけどね。

「にしても、まさか私まで、今回の配達に行けるとは思わなかったなー。ね、ゴーシュもそう思うでしょ?」

「そうですね。館長には感謝しないと」

「だよね。館長のおかげで、ゴーシュと長く一緒に過ごせるから嬉しいな。えへへ」

「僕も嬉しいですよ、リーシャ」

今の会話から分かると思うけど、本来なら今回の配達はゴーシュ一人で行く予定だった。それが、何で私まで行ける事になったかと言うと、会話でも言ってた通り、館長のおかげだったりする。

ゴーシュと結婚してから一ヶ月。私達は新婚旅行はもちろんの事、結婚式すら挙げていない。理由は簡単だ。休みがそこまで取れなかったから。そんな私達に対して、館長はこう言った。

『新婚旅行に行かせてあげたいのは山々だけど、さすがにそこまで休まれると困るんだよ。そこで、だ。次の配達は新婚旅行代わりに、君達二人で行って来たまえ。これは、僕なりの結婚祝いだよ』

こうして、私はゴーシュのユウサリ最後の勤務に一緒に行ける事になったのだ。やったね。

本当、館長には感謝している。思っていたよりも長く、ゴーシュと一緒に過ごせるようになったのだから。あまりにも嬉しくて大喜びしてしていたら、ゴーシュには苦笑されてしまったけど。



「誰!?…だ?」

しばらく二人で和気藹々と食事をしていると、急に声がした。そちらに視線を向けると、起き上がってこちらを見ているラグの姿。

「ああ、はい!僕はゴーシュ。ゴーシュ・スエード、18歳です。ただ今、ユウサリの市場で買った缶スープをリーシャと食べていて…。ああ、これ、具はイマイチなのですが、とにかく便利で…」

「ゴーシュ、スープの話は余計だと思うよ」

姿勢を正してから焦ったように話すゴーシュに対して、私はツッコミを入れる。ふとロダを見れば、彼女も同意するかのように頷いていた。それを見たゴーシュが誤魔化すように咳払いをして、また口を開く。

「すみません、トークが下手で。彼女はリーシャ・フィゼル。僕の同僚です」

「よろしく。実はこう見えても私、ゴーシュと結婚してるの。だから、本当の名前はリーシャ・スエード。仕事の時だけ旧姓を名乗ってるんだよ。改めてよろしくね」

ゴーシュに紹介されて、私は笑顔でラグに挨拶をした。やっぱり、初めての挨拶は笑顔が基本だよね。

「この子が僕のディンゴのロダ。そして、あの子がリーシャのディンゴのレイラ。ディンゴとは僕らの仕事言葉で相棒という意味です、ラグ・シーイング」

ゴーシュがラグの名前を口にしたら、ラグは弾かれたように足下にあった木の棒を拾い、私達に向かって構えた。

その様子を見て、私はあれ?と不思議に思う。私達、もしかしなくても警戒されてる?何で?ゴーシュが回復心弾撃った以外は、特に何もしてないよ?





2010.10.04 up
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