「どうぞ」

「ありがとうございます」

「ありがとう」

マナの研究室に花束を運び、お礼にと彼女が入れてくれたお茶を受け取る。

「美味しい…」

「本当に!?」

先に一口飲んだゴーシュの感想。続けて、私も一口飲んでみる。あ、本当だ。このお茶、すごく美味しい。

「本当!すごく美味しいよ、マナ」

顔を輝かせるマナに、私も同意する。もう一杯、おかわりしてもいいかな?

「何だか、体中の疲れが抜けていくようだ」

「そんな気がするね」

ゴーシュの感想に、私も頷く。心持ち、さっきよりも体が軽くなったように思う。

「それ、今研究中のパインウッズっていう、筋肉の疲れを取る成分が含まれているの!」

「へえ…」

なんかよく分からないけど、研究内容を話してくれるマナがすごく嬉しそう。

「ただ、医学的な証明が難しくて…。実用化までなかなか…」

だけど、彼女はそこまで話した所で一転して落ち込んだ様子になってしまった。

「マナ…」

その後ろ姿に、私はなんて声をかけたらいいのか分からなくて、ただ名前を呼ぶ。

「簡単に手に入る物に、価値なんてありませんよ」

「ゴーシュ?」

不意にカップを置いて、ゴーシュが立ち上がった。そんな彼の様子を不思議に思う。どうかしたの?

「僕はヘッドBEEを目指しているんです」

「ヘッドBEE?」

「大それた夢を見てると、笑う人もいます。でも、どんな難しい配達でも、一つ一つやり遂げていけば、いつかきっと、道は繋がる…」

しっかりとした眼差しでゴーシュが語る、彼自身の夢。私にはあまり話してくれないけど、それでも大事な夢だという事は伝わってくる。いつか、その夢が叶うといいなと思った。

「あ、すみません。励ますつもりが自分の話になってしまって…」

「もう、ゴーシュってば…」

我に返って謝るゴーシュに私がツッコミを入れると、部屋の中に暖かい笑い声が響き合う。

「珍しいな、マナ。お前がこの部屋に人を招き入れるなんて」

ガチャリと扉が開いたと思ったら、博士がつかつかと中に入ってきた。

「草花を運ぶのを手伝ってもらっただけです」

「しかし、相変わらず興味のそそらない物ばかりだな」

きょろきょろとマナの研究室を見渡しながら、博士が喋った。その内容はまるで、マナの研究には興味がないと言っているように聞こえる。

「博士は生き物専門ですからね」

「薬草や花だって、生き物の一種だろ」

「内部構造がまるで違います!」

熱くなった感情を抑えるように一息吐いて、マナは口を開いた。

「で、何かご用でしょうか?」

「ここの所、徹夜続きだそうだな」

「え?」

思わずといった感じで顔を上げたマナに、博士はさらに言葉を続けていく。

「睡眠だけはちゃんと取れ。寝不足の頭じゃ、ろくな仕事はできんぞ」

「大丈夫です。博士と違って、まだ若いですから」

博士の言葉を聞いて、ぷいっとそっぽを向くマナ。うわー、博士の言う事に物怖じしてないよ。

「若さに頼ってるようじゃ、まだまだ半人前だな」

博士はそう言いながら、マナの研究室から出て行った。

「博士と渡り合うなんて、いい度胸してますね」

「見てて驚いたよ。マナってすごいね」

先ほどのやりとりを見たゴーシュと私のそれぞれ感想。マナって、実は怖いもの知らずなタイプかも。私は怖いものは怖いし、羨ましいな。

「私なりのささやかな抵抗です。博士は私の研究を認めてないんです」

「え?」

「そうなの?」

言われた言葉に驚く。さっき入れてくれたお茶だって、とても効果があったと思うのに。

「だから早く結果を出して、博士をぎゃふんと言わせたいの」

「がんばってね、マナ!」

決意を語るマナに、私は応援の言葉をかける。そして、私とゴーシュは揃ってマナの研究室を後にした。



今は、ハチノスからの帰り道。私はさっき知り合ったマナの事を話していた。

「マナの入れてくれたお茶、美味しかったね」

「そうですね」

「早くマナの研究が認められるといいのに。博士は何で認めてないのかな?」

「………」

「…ゴーシュ?」

いつもより口数の少ないゴーシュを疑問に思う。なんか、いつもと様子が少し違っていた。

「なんか心配事でもあるの?暗い顔してるよ」

ゴーシュの顔を見上げて、私はそっと手を伸ばし、彼の頬に触れる。

「いえ、何でもありませんよ」

「ならいいけど…」

その手を包み込むように握って、にっこりと笑うゴーシュに、私はそれ以上何も言えなかった。



翌朝。私がハチノスに出勤すると、何故か館内が騒がしかった。何かあったのかな?と思っていると、すれ違う人達の会話が聞こえてきた。

「なあ、研究室の火災騒ぎ知ってるか?」

「知ってるぜー。徹夜続きだったのが原因なんだろ?」

「よくそこまでがんばれるよな。で、誰だっけ?その火災騒ぎ起こしたの」

「確か、Dr.サンダーランドJr.の部下で、名前はマナ何とかって言ったような…」

そこまで聞いて、私はマナの研究室へ駆け出した。どうか無事でいて、マナ!

私がマナの研究室前に辿り着いた時には、辺りは人だかりでいっぱいだった。ふと見渡すと、ゴーシュとアリアさんと館長が暗い顔して立っているのが見えて、私はそちらへ向かう。

「ゴーシュ、マナは無事なの!?」

私が聞けば、さらに三人とも顔が暗くなった。まさか、マナは…。

「命に別状はありませんが、両目の視力を失うかもしれないそうです…」

最悪の想像をしかけた時に、ゴーシュがマナの容体を教えてくれた。それは、とても悲しい現実で…。今度は医務室へと駆け出す。

しかし、マナとの面会は今日は禁止だそうで、私は何もできずにその場を離れるしかなかった。マナ、大丈夫なの?





2010.09.16 up
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