「失礼しまーす。マナ、いる?」

「リーシャ!来てくれたのね!」

ガチャリと癒しの部屋の扉を開けて中に入ると、そこにはマナがいて私を迎えてくれた。

「うん!癒しの部屋が開設されて、責任者がマナだと聞いたから、会いに来ちゃった」

「ありがとう、リーシャ」

私がにっこりと笑えば、マナも笑ってくれる。本当、いい顔するようになったよね、マナ。最初に会った頃とは大違いだ。

「あれ?リーシャも癒しの部屋に来たの?」

そんな時、横からラグの声が聞こえてくる。そちらを振り向けば、ラグ、コナー、ザジとそれぞれのディンゴ達の姿が目に入った。あ、ザジとニッチとステーキは寝てるよ。可愛いなー。

「あ、ラグ達も来てたんだね。私は久しぶりにマナに会いたくて。ところで、さっきゴーシュの名前が聞こえたけど、どうかしたの?」

そして、私は扉を開ける前に聞こえたゴーシュの名前について問いかける。

「ラグ・シーイングにゴーシュとの思い出を話そうと思ったのよ」

マナが懐かしそうに笑った。つまり、あの話をするわけね。懐かしいなー。ゴーシュがいる頃の話だから、もう五年も前なんだよね…。

「私も聞いてもいい?」

「もちろんよ」

懐かしさに頬を緩ませながら、ソファに座る。そして、目を閉じてマナの話を聞きながら、私もあの頃を回想し始めるのだった。



「ゴーシュ、今日ね…」

ハチノスの廊下を恋人のゴーシュと一緒に歩いていたら、曲がり角で大きな花束を抱えた女の人が彼にぶつかった。

「わっ!すみません!」

「半分持ちましょうか、マナ・ジョーンズ?」

謝る女の人に、ゴーシュが優しく声をかける。どうやら、彼女はマナ・ジョーンズというらしい。ゴーシュの知り合いかな?

「結構です。私一人で運べますから」

そう言って大きな花束を抱えたまま、歩き出すマナさん。だけど、彼女はまた別の人にぶつかってしまった。

「きゃあ!」

「大丈夫ですか?」

倒れそうになるマナさんの体をゴーシュが支える。う、羨ましくなんてないよ。だって、ゴーシュの恋人は私なんだから。

「ちゃんと前見て歩いて下さいね」

「す、すみません…」

ぶつかった人に注意され、マナさんはゴーシュに支えられたまま謝った。

「やっぱり半分持ちます」

「私も半分持つね」

さりげない仕草でマナさんの花束を半分持ったゴーシュを見て、私も彼女の持つ花束を半分持つ。このまま私が何もしないと、ゴーシュにリーシャは先に帰ってて下さいねと言われかねないから。

「さあ、行きましょう」

ゴーシュが歩き出し、私とマナさんも後を追って歩き出す。

「私はリーシャ・フィゼル。よろしくね!」

まずは笑顔で自己紹介。いくらゴーシュがマナさんを知ってても、私は彼女の事を何も知らないもの。

「マナ・ジョーンズよ。私こそ、よろしくね」

「ねえねえ、マナさんはどんなお仕事してるの?」

にこっと笑ったマナさんに、私は彼女の仕事内容を訊く。

「マナでいいわ。私もリーシャって呼ぶから。私のお仕事は、薬草とか植物の研究をしているの」

「すごいね、マナ。私、植物なんて詳しくないから…。野菜とか、果物とかの食べ物系なら分かるけど」

私が尊敬の眼差しをしながら言えば、マナとゴーシュが揃ってくすりと笑った。

「もう、何でゴーシュまで笑うのよ!?」

「すみません。リーシャらしくて、つい笑ってしまいました」

ゴーシュにまで笑われた事に対して頬を膨らませながら抗議すると、彼はにこにこと笑いながら謝った。絶対悪いと思ってないよね、ゴーシュは。

「二人とも仲がいいのね。運んでくれたお礼にお茶を入れるから、よかったら飲んで行って?」

いつの間にか、目的地である研究室に着いていたらしい。私とゴーシュはそれぞれ持っていた花束をマナに返して、さあ帰ろうとした矢先。マナは私達をお茶に誘ってくれた。

「せっかくだから、ご馳走になろうよ。私、のど乾いたー」

「そうですね。では、お言葉に甘えて…」

私はゴーシュと顔を見合わせてから、笑顔で了承するのだった。





2010.09.12 up
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