死してなほ
2
 

四方に伸びきった草が足に絡みつく。少年はゆっくり歩を進め、肩を震わせながらあたりを見回した。
中庭まで来ただろうか。


「みゃー」


「……っまた、お前か」


背後から鳴き声が聞こえたので振り返ると、先ほどの猫がいた。
一度目は短い悲鳴を上げてしまったものの、二度目ともなると慣れてきた。

また驚かされてはたまらない、いっその事邸にいる間はこの猫も連れ歩いたらどうだろうか。
と思いつき、自分を見上げてくる猫の前に膝を折る。
引っかかれないように手を伸ばしたところで、黒猫はその手が見えていないかのように、またも少年の横を通り過ぎる。

野良猫に脈はなし、と諦めて後ろを振り向くと少年は目を疑った。
己のすぐ後ろに、白い少女が立っていたからだ。
黒猫がその足元に擦り寄り、喉をごろごろと鳴らしている。

はて、物の怪に足はあると聞いていただろうか。


「この子ったら、また外を散歩してきたのね。お前だけずるいわよ」


おまけに喋る。
夜の澄んだ空気に溶け込むような、か細い声だ。

あまりの驚きで足が動かず、思わず見入ってしまったが、少年ははっとした。

そこにいる少女は、肌は血が通っていないかのように青白く、明かりもないのに自ずと光をともしているように夜の暗闇に浮き出ている。
そして、袿も表衣も着ていないただの単姿。

本来女性が単姿で人の前、ましてや男の前に現れるなどまずありえないので、少年は少女のことをこう結論づけた。

これが噂の、物の怪だ。


「あら、こんな時間にお客さ……」


「も、物の怪……!うわあああああ」


白の少女がこちらに気付いたと同時に、少年は縫い付けられていた足をほどいた。
そして一目散に門のほうへと走る。

後ろを振り向いてはだめだ、とりつかれてしまう……!
物の怪への偏見からくる焦りと恐怖が入りまじり、少年は肝試しのことも忘れて逃げ去ったのであった。




- 2 -

*前 | 次#

作品一覧へ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -