ぱちん…
局に響くのは、碁石を打つ音のみ。
ぱちん…
一方が打てば、一方が打ち返す。
ぱちん…
それの繰り返し。
ぱちん
やがて、碁石の打つ音が止んだ。
そして
「…まいりました」
と、公達は言った。
女房は
「良い勝負でした。高比良さま…」
と答えると、ゆうるりと檜扇を開いた。
「しかし、由芽の碁の腕はいかにして上達したのか…」
公達…高比良がそう言うと、
「幼い頃より、高比良さまや二の宮さまとともに碁をして遊んだからでしょう…」
と、由芽と呼ばれた女房ははにかんだ様に言った。
その言葉に高比良は満足できなかったようで「幼い頃遊んでいたからといって、ここまで強くなるとはね…」と頬を膨らませた。だが「女ごときが、碁で殿方を負かすなど…恥でしかありませんね…」という由芽の申し訳なさそうな言葉にはっとなり
「気にしないで。本領を発揮してくれ…と言ったのは私だよ。男女で才能を隔てるなど…私はそんな事はしないし。ましてや由芽は幼馴染だし、此処は私の生家だ。周囲を気にする必要もないよ。」
と柔和な笑みを浮かべた。
高比良の性格が伺えるこの言葉に、由芽は檜扇の裏側で満面の笑みを浮かべた。
幼馴染と言っても、由芽は高比良の生家である内大臣邸に仕える女房であった。
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