君思ひ、恋焦がるるは
 

「え…」

突然聞こえた声に思わず振り返ると、御簾の外に直衣を着た一人の青年が鎮座していた。

「まぁ、藤原様ったら…。…ご紹介しますわ、こちらがわたくしの妹の初花でございますわ。ご挨拶を…」

呆然と立ちすくんだままだった私は姉さまに促されて、姉さまの横に座り、目の前に鎮座した青年に御簾越しにあいさつを交わす。

「さ、先ほどは大変ご無礼をいたしました… 初花と申します…」

未だ動揺したまま謝罪の言葉を述べる私。御簾越しからは見えないだろうが、頭を何度も下げている私に姉さまは小さくくすくすと笑っている。

「いえいえ、謝らないでください。私は藤原遠弥(とおや)と申します。藤の君にはいつもお世話になっています」

にっこりと笑みを浮かべる彼に、どくんと胸が鳴る。

「筝の演奏をあなたとするので良ければどうですかとお誘いをしたのよ」

姉さまの一言に思わず振り返る。まだ家族にしか聞かせたことのない筝を、人前で演奏する。しかも姉さまと一緒に。姉さまと演奏するだけでも緊張しているのに、人様の前で…

私にはまだ無理だ。だから今回は断らせてもらおう。そう思い、姉さまを仰ぎ見る。

「そんな顔しなくても大丈夫よ。落ち着いていつものように…ね?」

私の緊張をほぐすように穏やかに微笑む姉さまの言葉に、すとんと肩の荷が下りる。いつものように…そう心の中で呟きながら、目の前に置かれた筝に目を落とす。

「以前合わせた曲でいきましょうか」

姉さまの言葉にこくりと頷くと、筝へ手を伸ばす。姉さまが弾きはじめると一瞬にして変わる空気。姉さまの音に合わせるように私も弦を弾く。

澄んだ姉さまの筝の音と、外から聞こえる鳥のさえずりや風の音に導かれるように音を紡いでいく。



- 3 -

*前 | 次#

作品一覧へ

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -