「姉さまが?わかったわ、すぐに行きますとお伝えしてくれる?」
私の返答に頷いて、お伝えしますとお辞儀をした後、女房は部屋を出ていく。立ち上がった私は、着崩れを整え、桜が描かれた檜扇を広げ、雪柳に導かれるように部屋を出る。
姉さまに呼ばれることはよくある。とても優しくて、美しくて、私の自慢の姉。筝を始めたのも姉が弾いていたのを毎日見ていたから。
『初花もやってみる?』
『やるー!』
姉さまのその一言で初めて筝に触れた。姉さまみたいなきれいな音が出なくて泣いた私に姉さまはやさしく私の手をとって優しい声で
『ゆっくり、優しく、弦を弾くのよ。こうやって…』
大きな手に導かれて弦を一緒に弾いた時、鳴り響いた澄んだ音に私は今までにないくらいとても喜んだことを今でも覚えている。
あの音の感動が忘れなくて、それからずっと筝の練習をやってきた。姉さまみたいな音を奏でたい、その純粋な気持ちで。だが、その気持ちが姉さまを越えたいという気持ちに変わったのはいつからだっただろうか。“あの人”と出会ってだ。
あの人に最初に出会ったのは、今みたいな桜の花が舞う季節。
私が筝を始めて7年の年月が過ぎたある日、今と同じように筝の練習をしていた中、姉さまの女房が現れ、『筝を合わせないか』とお誘いが来た。
姉さまとの合奏、緊張と胸の高鳴りが止まらないまま、姉さまの部屋へ向かう私。
「姉さま!」
早く合奏したい、はやる気持ちを抑えきれず、つい大きな声を出してしまった私。…反対側の御簾の外に人がいることさえも気づかずに。
「あらあら、大きな声を出してはいけませんよ」
優しくたしなめられ、しゅんとする私に御簾の外からかかる声。
「元気がよくてよいと私は思いますよ」
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