イシド先生と吹雪くん | ナノ
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正直……

その姿を一目見た瞬間、触れたら直ぐに引き込まれそうな犯罪めいたオーラに目眩を覚える程だった。

今まで自分が歩んできた道を振り返ればそもそも平穏、平坦とは縁が無いことは自覚している。

幼少の頃からサッカーで注目を浴び、時には家族を生命の危機に晒すことや、自らが身を隠さねばならない状況に追い詰められたり。

プロになってからも波瀾万丈は続いた。
自分自身のことだけならやり過ごせるが、家族に危害が及ぶことへの罪悪感のようなものが胸の内で積もり積もっていったのは確かだ。

妹夫婦の挙式さえSPに囲まれたものものしい催しとなり、さらには新婚旅行先で起きた俺のファンもしくはアンチ絡みの騒動もあり―――。

動機は色々あるのだが、それが決定打のような形で、その時のシーズン終了とともに俺はプロサッカー界を引退した。

まるで姿を消すような形だったが、華やかな世界と自分との間を完全に遮断し、別の形でサッカーに恩返ししていくことに決めたのだ。



その翌春から俺は親友夫婦が経営する自分の母校・雷門高校で教師を務めている。

名前も変え、容姿もイメージチェンジした。
世間のほとぼりが冷めるまでは、これで通すつもりだった―――


運命の出会いは、そんなある日に訪れた。
酷い大雨の日だった。


「あのぅ……イシドシュウジさんのお宅ですか?」

玄関のチャイムが鳴り、スコープで外を確認してからドアを開ける。
目の前に立つ少年を見て、一瞬何が起こったのか……と不思議な動揺に襲われた。


「……ああ。お前は……」

「今日からイシド先生のお家でお世話になる、吹雪士郎で……っ…クシュン☆」

今日からウチで高校生の男子生徒を預かる約束をしていたのはもちろん承知だ。
吹雪士郎―――名前は聞いていた通りが、どうみてもコイツは高校生男子には見えない。

「空港に迎えに行くから電話しろと言った筈だが……」
「大丈夫です。僕は…っ…一人で……っ…クシュン☆」

「っ……風邪引いたんじゃないのか?とにかく中に入れ」



水もしたたる美少年……と言うたとえはあるが、本当にびしょ濡れ。

俺は吹雪の腕を引いて玄関に連れ込んだ。

「靴を脱いで、早く上がれ」

「あ、待って……靴下も濡れちゃってるから」

「じゃあ全部脱いでそこに置いておけ
そう言いながら、バスルームからタオルを持って戻ると……


「っ……おいっ!何やってる……」

「ん?何って?……“全部" 脱ぐんですよね?」

「っ―――」

靴も靴下も脱げ、と言ったつもりだった。

しかし吹雪は素直に「全部」を脱ぎ最後にパンツに手を掛けようとしていて………

「違っ……!」
それを下ろす手を慌てて掴んで引き上げた。

華奢な手を掴んでもまだ有り余る俺の手が冷えた白い腰に触れると、ぴくりと震えるような反応を示すから………ハッとして手を引く。

「全部脱げと言われてこんな潔く脱ぐやつがどこに居るんだ」

「……ごめんなさい」

目を逸らしたまま吹雪の裸体をタオルで頭から包み、数回ゴシゴシと水気を拭きながら……ちらりと視線を戻せば、従順に身を預けながらも少ししょんぼりしているように見える。

「だって………先生だからさ」

タオルの隙間から覗く上目遣いの瞳に……ついつい見入る愚かな男心。
「…………せんせいの……言うことは聞くものでしょ?」

おどおどと訊いてくる上目遣いの瞳は澄んでいて、表情も天使と見違うほど無垢だった。

「……………………」

柔らかい髪からタオルをほどき、白くて華奢な肢体を隠すように肩から一周巻いてやる。

その一部始終をされるがままの姿勢で見守る灰碧の瞳に、疚しさを見抜かれているようで気が引けた。

「このままシャワーで温まるといい」

「あ、でもさ、足の裏がベタベタだから……」

「いいからっ!そのまま早く行け!」

吹雪が体に巻いていたタオルをほどいて足の裏を拭こうとするのをあわやの所で制止して……

そのままバスルームへ連れていき押し込むようにしてドアを閉めた。



………出るのは深い溜め息しかない。


白くてきめ細かな肌も、
目尻の下がった綺麗な瞳も、
柔らかそうな唇も、擽るような声も
……俺の本能にいちいち刺激を与えてくる。



16才の未成年。

7つ下の妹よりさらにひとつ年下。


しかも来週から自分の勤務する高校の生徒になる……いわば教え子だ。



運命は俺を犯罪行為に誘おうというのか。

俺だって色恋についてはひととおり知っているつもりでいた。

―――だが、違う。
今までとは、全く違う気持ちだった。

気の迷いだと片付けようにも
それは あまりに自分の心の奥深いところに潜り込んでいて

コントロールが、出来ない。




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