イシド先生と吹雪くん | ナノ
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「おかえりなさ〜い」

鍵を開ける音に弾かれたように、
僕が玄関に駆けていくと

「フッ…………ただいま」

とイシド先生が腰を屈めて頬にキスをくれる。
そして
「どうした?この甘い香りは……」と、
キレイな切れ長の目をすいっとキッチンの方へと向けた。

「うふふ、ケーキを作ったのさ」

「ケーキ?」

僕の得意顔を見て、イシド先生は眉尻を少し下げてクスッと笑う。



「゙ごうえんじ先生たんじょうおめでとゔ……?」

スーツのジャケットを脱ぎながら、食卓のテーブルを覗きこんだイシド先生は怪訝そうな顔をする。

「今日は俺の誕生日でもないし、
゙たんじょうび゙の゙び゙が抜けてる。それに…」

「ケーキがぺちゃんこだって言うんでしょ///初めて焼いたんだから、多目に見てよっ」


わかったわかった……と彼がー旦寝室に消えて、
クローゼットを開ける音がした。

その間に用意したコーヒーをテーブルに並べた僕は、ラフな部屋着に着替え髪を括り直しながら出てくる先生を見て、いつもお決まりのようにドキッとしてしまう。



もうすぐ高2になる、春休み。

ある日、郵便受けに届いていた書類を見つけた僕は急いで材料を買いに行き、デコレーションケーキ(もどき?)を作ったんだ。


「誕生日じゃないのさ、今日誕生したんだよ、本当の゙豪炎寺先生゙がね!」

ほら、これ……と僕は郵送されてきた『教育職員免許』を表彰状みたいに恭しく彼に差し出した。


「豪炎寺修也先生、誕生おめでとうございます」

「っ……………ありがとう///」

先生は照れたように、僅かに口の端をつり上げて
それを片手で…そして少し照れ臭そうにもう片方の手も添えて受け取ってくれた。

ふふ…なんか、かわいい表情だなあ。
なんて思って彼の表情を眺めていた矢先に

「ケーキ、味見していいか?」って訊いてくるから何の気なしに頷くと、指先ですいっと生クリームを掬いとり僕の唇に乗せて……


えっ……キス…っ!

「な//////」

「フッ…美味いな」

って、もう―――キザなんだからぁ。




「…………あ…っ……ああん…」

ぺちゃんこケーキも、感慨深げに食べてくれた。

その上、おやすみ前のお約束のイチャイチャも
今日は何だかいつにも増して熱がこもってて///あ…また………イきそ…

それに今日は…
滅多にさせてくれない゙ご奉仕゙も…させてもらえたし。

「はぁ………はぁ……も///だめ」

「…………吹雪……かわいい…」


………っ…………2回目の昇天////


「……もう……やだ…」

「嫌なら…明日からやめようか?」
「だ、だめぇ///」

ホントに僕は先生の手中で、甘く弄ばれてばかりだ。


イシド先生は、ベッドに沈みこむようにふにゃっとしている僕に流し目を送って綺麗に笑い、
優しくこっちを向かせると、
まるで幼子を扱うように丁寧にパジャマを着せてくれる。

「ねぇ……明日から呼び名はどうするの?…イシド先生のまま?」

「ああ」

免許は免許だ。本名で取るのは当然だが通称を使うのとはまた別だからな、と彼は言い
それから「イシドシュウジも現役時代から使ってた名なんだ」と笑った。

今は裏表が逆転しているだけだ、と。

イシド先生は僕を抱きながら横たわり、
それに身を任せた僕は彼の胸板に寄り添うように
目を閉じた。


「"イシドシュウジ " はプライベート用で気軽に使えるようにとプロリーグ時代のマネージャーが思いつきで作った通称でな、使ってみたら案外便利で……」


確かに…便利なのかも知れない。

髪を立ち上げたフィールドでの勇姿と "豪炎寺" という名前が鮮烈すぎる分、こうしておろした髪をラフに束ねた私服で別名を名乗っていれば
誰もまさかあの彼だとは思いはしない。

当時あれ程切羽詰まってた僕でさえ
いきなり「豪炎寺修也の家」に世話にならないかと言われたら、さすがにご遠慮させて頂いたかもしれないし。


先生の長い指が髪を梳くように撫でてくれるのが
心地よくて、眠気が優しく覆い被さってくる。

「……ね…じゃ、いつ戻るの?」

「いつかサッカーに、恩返しを始めようと思う。
その時に一ーー」

ふふ…いいかもね、と半分眠りながら僕は頷いた。

閉じた瞼の裏には、テレビで憧れながら観ていた
豪炎寺選手の凛々しい横顔が浮かんでる。

今『サッカーに恩返しを』と語った彼は
その彼と的多分同じ表情をしてる‥.…。



眠りを妨げない優しいキスが、
顔じゅうに降るのが心地いい。



ねぇ…………
じゃ僕たちが、ひとつになれるのは、いつ?


「卒業、してからだな」



どこまでが現実で、どこからが夢だったんだろう。

そして
どこまでちゃんとあなたに伝わってるんだろう。

でも、確かな言葉の重みと温もりが
微睡む僕の脳裏に残ってる。

待ちどおしいなーーーとその日を夢見なから
僕は今日も夜を数えるんだ。



高校卒業後、゙豪炎寺先生゙と僕が心身ともに゙夫婦゙になって幸せに暮らす光景なんて、今からだって
必然みたいに思い描くことができる。

きっと、叶う夢だから。


だから……それまでの間は

スポットライトが当たる道を
息継ぎなしで突っ走ってきた、
豪炎寺修也さんの人生初のモラトリアムを、

僕が一緒にのんびりと過ごしてあげるから。



たっぷり…癒されてね。






イシド先生……僕が幸せに、してあげる。

イシド先生と吹雪くん*完



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