恋のやりとり
窓の外はまだ少し雨が残っている。
兄の彼女♂(?)に興味津々の夕香から「宿題をやるから」と彼の部屋に逃れて………二人きりでしているのは、本当に宿題だ。
家族がいない空間では、二人は元通りの“豪炎寺くん”と“吹雪”に自然に戻っていて………
広い学習デスクは二人並んでも余裕でノートが開けた。
温かい食卓の余韻に包まれポワンとしている吹雪を横目に、黙々とシャープペンを動かす豪炎寺の宿題だけが進んでいく………
「………ひゃっ!」
隣でバタン、とノートを閉じる音に、吹雪はビクリと我に帰った。
「終わった。これを貸すから寮で写しとけ」
「あり………がとう」
「で、本題だが………」
「え………」
借りたノートを胸に抱き、詰め寄られた吹雪は椅子ごと仰け反る。
「俺の家族といて、楽しかったか?」
「……うん……すごく……」
「ならいつでも来ればいい。夕香も喜ぶし、な」
「………いいの?」
「ああ、もちろんだ。だから………お前はもう“家族欲しさ”に恋をするのはやめろ」
「…………どう……いうこと?」
吹雪は戸惑いを隠さずに豪炎寺を見上げる。
「お前は俺を見習いたい、と云っただろう」
「いったよ………けど…………」
唇が自然に重なる。
期待まじりに予感していた吹雪は素直に目を閉じて、繰り返すキスに応える。
「俺はお前が好きだ」
僅かに離した唇が、吹雪に触れながら告白を続ける。
「すきな奴には………色々したくなるんだ」
触れるたび、身体が熱くなる。深くなるキスに押されてキャスターつきの椅子が下がっていく。
そして、突き当たった壁際のベッドに、そのまま抱かれて転がり込んだ。
「お前も…………今日、保体の授業で何考えてた?」
「っ……………君こそっ………」
「俺にそれを訊くのか?」
「や………っ………」
「口では云えない………こういうことだぞ………」
身悶えながら吹雪は思い知る。すきな人に組み敷かれたときに発する“いやだ”という言葉がどれほど意味をなさないものなのか。
でも“いや”がたくさん零れて、はずかしいのにどんどん心と身体がほどけていく……
制服の上も下も脱がされ、明るいシーリングライトの下にさらされた肌を、豪炎寺の唇がなぞる。
「ぁあ…………そこ…………だめだよぅ……………」
胸元を唇で塞がれ吸ったり転がされたりされて、吹雪はたまらなくて身を捩った。
「何がダメなんだ?」
「………ヘン……になるからぁ……」
「………どこがだ………ここか?」
吹雪の下着をおろしながら、豪炎寺が意地悪く訊く。
「そこぉ………なめ、ちゃ…………あっ」
しなやかな白い脚の間に顔を埋めた豪炎寺は、その付け根の屹立をためらいなく口内に含んだ。
未知の快楽と熱が身体の内外で絡みらせんのように高みに上って、白い天井が霞んで星が散る………
これが………恋?
ただきもちよくて、せつなくて甘くて、抱き合った相手と重ねた肌をいつまでも離したくなくて………
窓の外ではとうに雨が止んでいたけど、それに気づく余裕なんてなくて。
ただ上り詰めた余韻だけが全身を包んでる。
体格は違うけど同じつくりの身体だ。
彼がしてくれる愛撫を真似て、自分も必死に尽くしてみた。手や口や舌を使って、ちゃんと上り詰めるまで―――――
彼の部屋の白い天井にはまだ星が飛んでるみたいにみえる。
「帰らなきゃ………」
「……………そうだな」
くしゃくしゃになったベッドの上で身体を起こした吹雪に、豪炎寺は散らばった着衣を集めて渡してくれる。
欲情を発散して、身体だけはすっきりしてるに違いないのに、彼はまだ晴れない表情をしている。
僕のせいだ…………と吹雪はうつむく。
ちゃんと自分の気持ちを伝えなくちゃならないのに、まだその勇気が持てずにいるから。
恋という、ままならない感情でさえもて余すのに、豪炎寺という存在は、元々自分のなかで大きすぎて、委ねるのが怖いのだ。
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