かえりみち
「…………君の…………大きかったなぁ…………」
「…………なんの話だ」
豪炎寺のマンションを出て一番始めの信号を待ちながら、呟いた吹雪の言葉に、豪炎寺が前を向いたまま眉をひそめる。
「アレの話さ………」
発言とは似ても似つかぬ可愛い顔で、吹雪は空を見上げる。
雲が飛んでいった夜空には、ところどころで星が瞬いていた。
「保体の授業ききながら想像してたよりも凄くて………でも、入れてほしいなって気持ちに…」
「いくぞ」
いたたまれなくなった豪炎寺は、続きを遮るように、信号が変わると同時に歩きだす。
そういう“気持ち”も勿論嬉しいが、それより確かめたいのは肝心な“こころ”の方だ。
「あ、流れ星……」
こんな都会でまさか………と、呆れて振り返る豪炎寺は、信号を渡り終えた場所で目をとじて天を仰ぐ吹雪に釘付けになる。
その姿の美しさと、祈るように呟いていた言葉に…だ。
“豪炎寺くんと死ぬまで愛し合えますように”
確かにそう聞こえた。
やっぱり吹雪はロマンチストだ。でもその願いなら、叶えてやれる。俺が必ず―――
「……ねぇ」
「何だ?」
「お願いがあるんだけど……いい?」
どんどん歩幅が小さくなる吹雪に合わせて、豪炎寺も歩く速度を緩める。
「ああ。どうした?」
うつむき加減の吹雪に耳を寄せると、小さな声で「おんぶして」と囁いてくる。
さらには「なんだか身体が感じちゃってて、うまく動けなくて……」と付け足すから。
寮まであと半分の距離、恋人になりたての吹雪を背負って歩いた。
途中ですやすやと寝息も聞こえてきて………
告白は直接聞けなかったが、吹雪がみずから“してほしいこと”を自分に伝えてくれたことに満足していた。
まだずっとこうしていたいけれど、次の角を曲がれば寮にたどりつく。
でも、さよならを告げあって今日が終わっても、またふたりが“愛し合える”明日がくるのだ……と思うと、胸がくすぐったく踊った。
ゆらぐ*完
← →
clap
→contents
公式いろいろ
→top