マッチ売りの少年 | ナノ
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 7

身体をひとつに結びながら、僕の中で疼く熱を見透かすように、君の怒張が突いてなぞる。

喘ぎ声が止まらない唇を唇で塞がれて、割り込まれた熱い舌に翻弄され混ざりあう唾液がこくりと咽を通れば、媚薬みたいにまた感度が深化していく………

「ぁうっ………」

また下腹部を濡らす僕の飛沫。
濡れた彼の手が僕の腰を掴み直して、結合がさらに深まる。

「あぁ……ん……」

もう君もイッてくれなきゃ、壊れてしまう。
愛情の渦に呑まれて戻れなくなってしまう―――

でも―――

僕の肌という肌を愛撫で満たすのに君はたぶん嘘をついている。


「はぁ…っ…………ぁあっ……もう…」

「吹雪……イくぞ」
「あ……ぁっ……」

君の体が僕しか知らないのは本当だと信じるけれど、君は僕の知らない何か重いものを背負っていて。
すべてを捨ててここに来たのではないこと――――

「やっぱり…………これが落ちつくね」

僕の奥に君が注いだ熱を、隙間なく感じて満たされながら、途切れる息とともに僕が呟く。

「“これ”とは何だ?」

君は深い眼差しの中に少し不思議そうな色を浮かべて僕の瞳を覗き込む。

「この関係さ、ご主人様と僕の……」
「……止せ。今はそんなんじゃない」

睫毛にかかった前髪をすいっと長い指で優しく払ってくれる君が、僕の唇にキスをくれる。


「もう………晒しちゃいなよ。すべて」

優しいキスの後で、僕は優しく囁いた。
君は僕のしもべなんかにはならないでしょ、と。

「一生僕に仕えるなんて、絶対嘘……」
「いや、本当だ」

「嘘。君はまたどっかに行っちゃうんだ」

「…………」

だって君からは、相変わらず軍人の匂いがするもの。

周りに注意を張り巡らせながら、僕と二人きりで過ごせる束の間の時を、一刻を惜しみながら饕ってるのを僕が見破れないとでも思うのかい?


「君は………アウトローなんかじゃない」

アウトローだった僕だから分かるんだ。

君は世界を…ううん、世界は君を見放していない。それどころか必要とされている。

そんな世界から君は逃げたんじゃなく、非合理で不自然な "管理" から脱け出そうとあがいている途中―――。


「吉良財閥とKMBTの共同研究の成果が、君のあのアンドロイドなんだよね?」

「……ああ」

豪炎寺くんは頷く。

「君が、アンドロイドに全てを明け渡したのは、僕のしもべになるためじゃない………そうだよね?」

豪炎寺くんは、肩でひとつ息をついて頷く。

固い表情だ。
まだ幸せの余韻に浸っているお互いの心身には似合わない。

僕はもう一度繰り返した。

「ほらやっぱり。どうせまた、君はどこかへ行っちゃうんだ」

僕は豪炎寺くんの首に両腕を回して、綻ばせた唇を甘えるように寄せた。

「でもいいよ、好きにすれば。僕はずっと…………待ってるから」

「…吹雪……」
君の唇か吸い寄せられるように近づき、甘いキスの嵐を呼び起こす。

「ふふ……僕ね………」

たくさんの口づけに埋もれながら僕はうっとりして呟いた。

「一生、君の幸せな奴隷でいたいんだ」

君に『しもべになる』って言われた時は、正直、そうする事で君を一生束縛できるならそれもいいなと一瞬思った。

でも、やっぱりそれは違う。

「君は態度も大きいし、勝手な行動するし"しもべ失格" だよ」

僕は彼を甘く睨んで解雇を言い渡すと、彼も少し目を細め苦い微笑を口の端に浮かべて僅かに首を傾げた。

「奴隷という表現は、もうやめてくれ」

「でも、事実でしょ?」

制約には縛られていたけれど、あの要塞での日々――
僕は、幸せだった。

初めての夜も、ひとときを重ね続けた夜も、そして今も、全部がほんとうの愛情なんだって、互いの身体が証明してる。
僕が肌を合わせて、秘かに心通わせ愛を深めあったご主人様との関係。

それはもう、そういう形で僕の心身に刻まれてしまってるんだ…………幸せの かたちとして。


「そう…か」

君は、しばらく考えてから頷く。

確かにしがらみにがんじがらめにされていた俺を、ここまで動かし、ここに来させたのは―――俺に仕えてくれていた最愛で唯一の人、つまりお前だ。
そして、その人を "恋人"と呼べなかったのも事実。

あの時の感情を反芻するように豪炎寺くんは語った。

「確かに俺たちは主従関係が原点だ。ただ………」

想いのこもった声。思わず目を閉じると君の温かい手のひらが、僕の頭を撫でた。

「やりとりは主従だが、気持ちはずっと対等だったという事を忘れるな」

彼は言った。
「だからお前のことは、伴侶と呼ばせて欲しい」

僕が驚いて目を開け、そして頷くと、彼は幸せそうに目を細めた。



暗闇に迷いそうな若き軍人に小さな灯をかざした家のない少年と。

その軍人のおさがりの外套は、その少年を寒さと孤独から守った。

でも本当にお互いが贈り合ったのは真実の愛だったんだと気づく。


君がまたどこへ行こうとも、きっとまた会えると確信する。

貴賤もなく終わりもなく、そして絶え間なく燃え続ける灯が二人を導くから。



手繰りあう絆*完

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