6
豪炎寺くんは無言で僕を突く。
何度も、何度も、奥まで味わうように、角度を変えながら。
僕は彼にしがみついて、そのすべてを受け入れている。
こうしてると……何も怖くないんだ。
彼の漏らす吐息も、高揚する鼓動や熱も、向き合って密着してるからすべて伝わってくる………
もっと掻きまぜてくれたらいい。
彼と僕の境目がぐしゃぐしゃに入り乱れてるのが、すごく気持ちいい。
ああ、今まで誰にも明け渡さなくてよかった。
僕をこんなふうにしていいのは、君だけ。
僕は君だけのために、乱れて、壊れて、それでも全部受け止める。
「……あ…あっ………っはぁ……ご……え…じく……」
「っ……ふぶき……」
僕の奥で爆ぜて拡がってく脈動と熱。
徐々に緩まる腰の律動。
高鳴る鼓動と、荒い息づかい。
すべてがいとしくて、いとしさに埋もれたまま意識がふわふわと遠のいていく…………
戻ってきて、初めに感じたのは
髪を撫でる優しい君の手と指の感触。
「大丈夫か?」
こくりと僕が頷くと、じっと僕を見つめる黒曜の眸が安堵したように揺れた。
「ふふ……」
「……何だ」
「頭撫でるの…好きだよね?」
「……いや……」
豪炎寺くんは、照れたようにフッと微笑んで「それはお前の髪が……綺麗な色で柔らかくて……いい香りで…」
だから触れたくなるんだ。
ご主人様は僕のくせっ毛に鼻先を埋めながら幸せそうに零す。
満たされた幸せな奴隷。
また“心得"を破ってしまったけれど、半分はご主人様の言いつけだ。
それと、自然の摂理。
だって“煽ってはならない" って言ったって何したって煽り合ってしまう。
“愛撫" だって………触れ合えばすべてが愛撫に感じるのだから。
「ごめん……なさい。僕……またいっちゃったみたい……」
ベッドから体を起こそうとしてへにゃりと崩れる僕を、彼は受け止めるようにして引き寄せる。
「気にするな。証拠なら隠滅してやろうか」
「ひゃっ!だ……め。身体……拭かないと……」
下腹についた精液を舐め取る彼を、僕は必死で押し止めた。
「拭くな。今日はこのままで……それが命令だ」
濡れた身体を腕のなかに閉じ込められて、密着した肌の熱がすごく心地いい。
「朝までこうしていよう」
「あ……の……でもそれは……」
昨日も泊めてもらっちゃったし帰らなきゃ――と力なくもがく僕を軽々抱きすくめて豪炎寺くんは呆れたように言う。
「そんなことは、ベッドから起き上がれるようになってから言うんだな」
手足を使って抱きしめられて。
「お前の回復を見届けるまで、ここから出さない」
耳元で囁かれる幸せな拘束の言葉は、全身全霊を使い果たした空っぽの僕の心と体に、心地よく沁みた。
もう、春が近づいていた。
体に彼を受け入れてご奉仕するようになってからは、奴隷生活の半分をご主人様の部屋に匿われて過ごすようになった。
動けなくなるまで抱かれて、帰れないからという理由で。
密かな蜜月を僕らは過ごしていた。
でもそれも、秋までのおとぎ話だ。
閨閥という冷たい現実。
その日が近づくにつれ、濃くなっていく陰鬱な影は、豪炎寺くんの心を蝕んでいった。
彼は毎日僕を激しく求めて、僕をベッドの囚われの身にした。
そのうち彼を独り占め出来なくなる。そう思うと心が凍てつくように軋んだけれど、僕は必死で彼を心と体で受け止め続けた。
僕は、僕なりの形で彼への愛を伝えればいい。側にさえいられるなら、どうだっていい。
言葉で何も伝え合えなくても、結び合う身体が真実を知っていれば、それでいい―――。
格差に秘めた愛*完
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