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3

いつの間にか、吹雪の身体はソファに座る豪炎寺の上で向きあうように乗せられていて。

「僕が……君の初恋……?」
豪炎寺の首にしがみつくように腕を絡めた吹雪は、ため息とともに言葉を零した。

「ああ。あの時告白したとおりだ」

「あ………」

吹雪は潤んだ目を丸くして豪炎寺を見つめ、みるみる頬を赤くする。

あれは、高一のときのことだ。
待ちかねた吹雪の上京に、豪炎寺が押さえられなくなった気持ちを打ち明けたのは―――。

「あの時お前は……俺のことを“そういう対象には見れない”と言ったが……」
「違う……」

吹雪は気まずそうに瞬きしながら俯いた。

「……当時……君が僕の主治医のご子息だったから……不謹慎だと思って………」
「そういうことか」

豪炎寺は僅かに目を見開いて、それからそっと吹雪の髪くしゃりと撫でた。

「当時のお前にとっては、賢明な選択だったな」

「でも……あれから……すごく辛かった……君に会うたび……」
「今は?」

「………いま?」

「今はもう……そんな理由は俺たちの障壁にならないだろう」

感情を抑えた口調に乗って、真摯な思いが吹雪の胸にズシリと響く。
密着した互いの身体は、着衣を通してでも十分に、高鳴る鼓動や肌の熱を伝え合っていた。

「ん………んん……っ…はぁ……」

障壁はない。
だから、ここへ来たんだ。
夢中で交わし合うキスが、お互いの答えだ。
そして吹雪は思う―――自分が打ち明けた内情に、豪炎寺は驚いた素振りを見せなかった。
もしかしたら当時から彼にすべて見透かされていたのではないか、と。


「………電話じゃないか?」

豪炎寺はしなやかに絡む肢体を支えて、抱き起こすようにソファーから立ち上がった。

「取るぞ……」

ダイニングチェアの背凭れに掛けてあった吹雪のジャケットから取り出した携帯が、持ち主の手に渡される。

「……マネージャーさんだ……」

受け取ったスマートフォンのディスプレイを見て呟いた吹雪は、乱れた着衣のままでソファに身体を任せて応答する。

「もしもし………」

掠れ気味の声が、豪炎寺との溶け合うようなキスの余韻みたいで……吹雪は照れながら話す。

「連絡しなくてゴメンなさい。今日は……友達の家に泊まるから……うん………あ、そうしてもらえると助かります。ユニフォームはここにあるから……」

紅潮した頬に、少し乱れた髪。
潤んだ目で瞬きして濡れた唇を指先で無意識に拭いながら、鼻にかかった小声で話す吹雪の姿がやけになまめかしく映る。

豪炎寺は電話のやり取りから遠ざかり、寝室にあるウォークインクローゼットのドアを開けた。

吹雪の寝間着に出来そうなサイズの部屋着を探すが、合いそうなサイズがなくて困る……

タイトでなるべく着心地が良さそうなウェアを手にした豪炎寺の背中から、吹雪の声がした。

「ねぇ……豪炎寺くん……見て」

振り返った豪炎寺は目を見張り、その場で立ち止まっている。

そこにはチームの……ディープレッドのユニフォームを身につけた吹雪が立っていた。

「さっきの電話で思い出したんだ。今日チームからユニフォーム貰ったこと。赤は初めてだから……なんだかすごく新鮮な気分だよ」

吹雪はくるりと一回りして見せる。
「ふふ……背番号のロゴもいい感じ」

豪炎寺は苦笑混じりに肩で息をつき、手にしていた着替えをチェストの上に置いた。


「おかしい?」

「いや―――似合い過ぎて眩しいくらいだ」

吹雪ははにかみながら、ふと表情を翳らせる。
いつからか彼は言葉が巧みになった。もちろん悪いことではないけれど、それは自分の知らない彼の一面で……。

「これからお前は、どうしたい?」

「え?」

「ダイニングに戻ってワインを開けるか、それとも―――ベッドでさっきの続きをするのか…」

熱のこもった視線で吹雪を見据え、豪炎寺は口の端を吊り上げた。
“さっきの続き”が情事のことをさすのは、その表情でも分かる。

頬が熱くて喉が渇いている。
でもこの渇望を満たすのはワインじゃなく―――互いのぬくもりであることは明確だった。

「そうだね。どうせ酔うなら……僕……」

吹雪は首を傾げ、はにかみながら呟いた。
「君に、酔いたいな」と。