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8

「はぁ………」

何度めのため息だろう。

吹雪はぱちりと目を開く。

眠れたのはせいぜい一時間くらいだ。
豪炎寺の腕の中は心地良い反面、落ち着かない。
薄手のナイトウェアから覗く褐色の肌から伝わる渇望した熱。
眉間に皺を寄せ……苦悩してるような彼の寝顔。
腕のなかから見上げていると、申し訳なさで胸がいっぱいになる。

僕の……………せいだ。
僕がさきに堰を切ったから。
攻め込もうとしていた彼自身が、自らの防波堤にならざるを得なくなっている。

彼からの「すきだ」のひとことで、僕は彼に対して「仲間」というコントロール力を失った。

仲間同士の絆の延長に恋とか愛が生まれることを今までイメージできなかった理由は「仲間」と言えば豪炎寺くんを真っ先に思い浮かべていたから。

彼は最強のライバルであり最高の憧れ。
よくも悪くも僕の心を揺らす唯一の人。
その人を「仲間」と定義していたのだから、それを越える存在なんてあらわれるはずがなかった。

なのに告白されて、タガが外れればあっけない。
彼と恋をするなんて最強で最高。それを自分に許せばどこへでも飛んでいけそうで…………まるで無限の宇宙に放り出されたように自由すぎる感覚が、かえって心もとなくも感じる。

ワガママが許されるなら、豪炎寺くんに今すぐにでも目を開けてほしい。
あの深い色の瞳で射抜かれながら、掴まえてもらって落ち着きたい。

そわそわしすぎて
胸が苦しいよ……。



「………なぜ泣く?」

「え…」
いつ起きたのだろう。
豪炎寺の落ち着いた声に弾かれたように、吹雪は自分の頬に手で触れる。
「泣いてなんか……」
次の瞬間、その言葉が予言だったかのように、はらはらと涙が零れだす。

「やだ……ごめ…ん、ぜんぜん悲しくないのに……」

また吹雪を謝らせてしまった……
だが涙は言葉にならない感情の表れに違いなくて。
白い頬を濡らす涙の意味を探りたげに指でなぞり、豪炎寺はそっと唇を重ねる。

「僕は……ずるいんだ」
待ちかねていた温もりを受け入れる唇の隙間から、ため息とともに心が零れだす。
「君にすきって言われたとたん、僕のなかでいろんな感情が爆発して……」

「……爆発、か」
豪炎寺は苦笑した。

「笑いごとじゃないよ」
吹雪は真正面から彼を睨んだ。
「僕にまた……制御できない別の人格が現れたみたいで……すごく困ってるんだから」

「別の人格?」
豪炎寺は眉をひそめた吹雪の額と自分の額を合わせながら抱き寄せて、囁くように訊く。
「それは……どんなヤツなんだ? 」

「ワガママで、甘えたで……焼きもちやきの不安がり……それに構ってちゃんで、もう手に負えなくて……」

「そうか」
困惑顔の吹雪に溢れる愛しさが止まらない。
「お前の手に負えないなら……」
豪炎寺は宝物を抱くように腕に力を込めた。
「俺に任せてみないか?」

苦しいほどの腕の強さもその押しの一手の言葉も……。
恍惚に酔いしれながら、吹雪は首を横に振る。
「そんなの……僕が困るよ」

“聞き分けのいい子”でずっと通ってた。誰かに迷惑かけるなんてもってのほかで……よりによって豪炎寺の顰蹙を買うようなこと、できるわけがない。

「お前の中に踏み込んで、治してやるから」
片方の手が、着たまま寝ていたローブの中へと忍び込む。

「治……せるの?」

「たぶんな」

「あっ……」

肌を撫でる手のひらが、吹雪の胸元で止まる。
固く尖ってる場所を指先でそっと転がされ、吹雪は未知の感覚に身悶えた。

「っ……あぁ…んっ……」

思わず漏れる声が恥ずかしい。
思わず浮いた腰をローブが滑り落ちる。

肌を滑るキスが迸らせる甘い熱に全身が疼いて、おかしくなりそうだった。

「吹雪……」

思い詰めた顔でぐっと腰を抱き寄せられると、彼の下半身の昂りが腿に押し当たってゾクゾクと物慾しさが込み上げる。

豪炎寺くんが僕に発情してて…………僕の身体も彼に反応してる。
両脚で彼を抱きしめる僕の入口に昂った彼の先端がつぷりと圧し入る。

「キツ………いな……」

「っ……ごめ……ん…」

「……謝るな。大丈夫か?」

伺うような言葉とは裏腹に、豪炎寺の熱と質量が、吹雪の未開の場所を支配する。

「………く……息吐け……」

吹雪は言われた通り、必死で息を吐く。

「俺のこと、好きか?」

言われた通りに、こくこくと頷いた。
身体のなかの豪炎寺がドクンとさらに増幅したのを感じて、それが吹雪の心の奥のスイッチもオンにする。

そこからはもう、心とからだが入り乱れてぐちゃぐちゃだ。

正常位で繋がる身体が激しい律動を刻んでいる。

いたわりながらも激しくなる抽送を、きつく呑み込む真っ白な身体と、その内側で擦れあい塗れる快感。
しがみつくように背中に回された吹雪の感触が、昼間のオイルを塗る手の心地よさと重なる。

あの時ひそかに豪炎寺のスイッチが入った。

行きずりでは決して得られない愛しさを肌身に感じて。それが自分のずっと抱えていた、吹雪にしか向かない気持ちだと悟れば、もう抑えられるはずもない。

「く……っ……」

吹雪の身体が震えて仰け反り、さらに締めつけてくるから、拐われそうで静止した。

覗きこんだ吹雪の頬は紅潮し、絶頂に蕩けた表情をしていて……豪炎寺は思わず見惚れる。

後には退けない。
このまま上り詰めるだけだ。

…………また僅かずつ揺れはじめる身体。
甘い痺れに奥まで焼かれるように、吹雪は快楽の精で下腹を濡らした。

「ああっ……も……だめ……」

絶頂を隠せない身体の構造が恨めしい。
恥ずかしさのあまり、顔をそむけていると、豪炎寺が濡れた身体を両腕で包みこむ。

「そんな顔をするな。お前をこんなふうにしてるのは全部、俺のせいだ」
首筋を撫で上げる豪炎寺の唇が耳元にたどり着いて囁いた。

熱を帯びているがいつもの落ち着いた声に、吹雪の心がふわりと解放される。

「ひ……かないで……くれる? 」

「勿論だ。引くはずないだろう」

むしろのめり込んでいる―――もう後戻りできないほどに。



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