最悪な関係がさらに悪化した


「うわあああぁぁああ!なんで追ってくんだよアイツ!」

金棒とか見向きもせずに同じように走ってきた。着物で視界塞いだのになんていう反射神経。
きっと逃げられたことが相当悔しいに違いない。

あれ、ということは私一本取った?
やった!やったぁ……。

なにあれ。物凄いスピードなんだけど。このままじゃ普通に追いつかれるんだけど。
しかもすっごいオーラ纏ってる。怖い。こんな本気の鬼ごっこ今までに体験したことない。
今度こそ捕まったら殺される。肥料にされる。

襦袢姿なことなんて気にせず走る走る。すれ違う獄卒たちに物凄い目で見られてるけど気にしない。
襦袢って一応下着の部類なのかな。よくわからないや。それより後ろのほうがまずい。
あともう少し。あともう少しで私の部屋だ。それまでどうか追いつかないで!

「よし…!」

きっとたった十数秒しか走ってないだろう。それなのにこの息切れ。
鍵は開いているからすぐに入って鍵を閉める。よくわからない胸騒ぎがするけど、きっと大丈夫だろう。
いや、本当に大丈夫か?自室のドアを開けて中に入る。あと一歩で捕まりそうだったけど何とか部屋に逃げ込めた。
ガチャ、と鍵を閉めれば一息吐く。

「いや、大丈夫じゃないよねこれ」

急に静かになる廊下。きっとドア一枚越しにアイツがいる。そして自分自身に出ているこの警告は、ここが安全じゃないと言っているのだ。
だってあの鬼神にたった一枚の壁で安心できるか?答えは否だ。

「人ん家のドア壊すなよ!」
「弁償はしますよ」

ドア蹴破って入ってくるとかどこの悪役ですかね?というか今の避けてなかったらドアに押し潰されてたよ。
逃げ場がなくなって鬼灯さんが入ってくる。逃げる術もなくさっきと同じように捕まれば、鬼灯さんは部屋を見渡して廊下に出た。

どこに行くんだ。こんな姿じゃ恥ずかしいんですけど。私の着てるやつ、白だし薄いし少し透けてるよ。うわ、恥ずかしい…。
そんなことを思っていれば、どこかの部屋の前に来た。鬼灯さんの部屋だ。ボス部屋じゃないですかやだ。
ドアは強めに閉められ、忘れず鍵を閉める。さすがお母さん。家の戸締りは完璧ね。

「さすがになかなかやりますね。まさか着物を脱ぐなんて思いませんでした」
「離してください。どうせ逃げ場はないんですから」

てっきり放り投げられると思ったら、伊達締めを掴んだまま同じ状態だ。
またお尻ペンペンですかね。背中もお尻もすごい痛い。よく走れたな私。きっと火事場の馬鹿力ってやつだろう。コイツから逃げるのに必死だったのだ。
逃げ場がないのは重々承知。悔しいが逃げられない。しかし離せと言っても鬼灯さんは手を離してはくれなかった。

「ねぇ、聞いてるの?離してください」
「こうしいてれば脱いで逃げるのかと思って」
「脱ぎませんよ!これ以上脱いだら裸同然ですよ!?」
「今更恥ずかしがるんですか?この格好も大概ですよ」

グイ、と持ち上げられて横を向けば鬼灯さんと目が合う。その視線は全身を舐めるように動いていった。
この鬼はそういうことする。しかも無表情。笑ってるより恐ろしい。

「変態!このむっつりが、手離せ!」
「おっと、暴れると手が滑ります」
「!?」

手が滑って鬼灯さんが私の上に跨った。いやいや、おかしいだろ今の!
しかもご丁寧に両腕の自由奪って、腹を蹴って抜け出そうとしても、それも押さえられてるし。なんなのこの状況。
私を見下ろす鬼灯さんの表情は無表情なのに、どこかすっごく楽しそうに見える。私の見間違いであって欲しい。

走ったせいで息が上がり、襦袢もかなり着崩れている。そして手足を押さえられて馬乗り。
なんだか色っぽい光景になってるけど大丈夫か。まだ陽は沈んでないですよ鬼灯さん。

「どうしました?」
「いや…恥ずかしいんで退いてください。逃げませんから」
「この格好で全速力で走ってた人がよく言いますね。獄卒たちが驚いてましたよ」

知ってるよ。わざわざ蒸し返すなよ。というか鬼灯さん、退ける気はゼロなんですね。

「こんな格好で人前に出るなんて危機感が足りないですね。それもこんな薄いの着て」
「何でもいいでしょ別に。肌触りが好きなんです。それに暑いですし」
「確かに肌触りはいい」
「触るな!」

なんなの変態?しかもなんで触るチョイスが腰なんだよ。いちいち変なところ…。
待てよ。もしかしてこれ、遊ばれてる?からかわれてる?こうやって恥ずかしがってるの楽しんでる?
絶対そうだ。このクソ上司どこまでもクソだ。痛みを与えるだけじゃ物足りず、人が恥ずかしがってんの見て楽しみ始めた。いや、元からからかわれたりはしてたけど。
あぁもう、そうなったら私だって。要するに恥ずかしがらなければいいんだ。

「無心になります」
「はい?」
「恥ずかしがってるの見て楽しんでるんでしょう。その手には乗らないって言ってるの」
「…ほう」
「ちょっと、それ外さないでよ馬鹿なの!?」

言った瞬間これだよ。伊達締めに手をかけるとか、完全に脱がせる気満々じゃないですか。
つい声を上げてしまった。くそう、相手の思う壺。顔が熱い、どうしてくれるんだ。
というか、鬼灯さん?あの、それフリとかじゃなくて本当に取るの?
鬼灯さんが私の伊達締めを剥ぎ取った。さらに軽装備になる私の格好。

「あの、恥ずかしがる以前にこれ、私襲われてます?」
「ようやく理解したんですか。どう見ても襲われてるでしょうこれ」

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