最悪な関係がさらに悪化した


「あのクソ上司、熱湯釜に足滑らせて茹で上がればいいのに…!いや、いっそ突き飛ばしてやろうか」

あ、どうも名前です。第一補佐官の補佐、つまりあのドS鬼神の補佐やってます。
そしてなんでこんなに腹を立てているかって言えば、上司が気に入らないからです。
部下に全然優しくないし、いちいち小言言ってくるし、お母さんみたいだし…。できることならこの仕事やめたいくらいです。
だからこうしてたまに愚痴るのもいいと思う。本当に一回でいいからやり返したい。何でもいいからあの上司の優位に立ちたい。叶わぬ夢なんですけどね…。

でも私だって抗ってはいるんだ。上司に抗うって言うのも変な話だけど。
この間だって辛いものが苦手って聞いて試したけど…失敗して痛い目見たのは私だよ。


***


「お腹すきましたね。この量じゃお昼なしか…」
「黙ってやりなさい」
「私今日おにぎり握ってきたんです。食べます?というか食べましょう」

半ば強制的に仕事の手を止めるとおにぎりを差し出す。
私のには普通の具が入っている。鮭だ。そして鬼灯さんには唐辛子をいっぱい入れてやった。

さぁ、食え。食って辛さに悶絶するがいい。そんな思いで私はおにぎりを頬張った。
うん、おいしい。お昼なしは確実だったし、今度からおにぎり作ろうかな。
そんな私を見て鬼灯さんもおにぎりを見つめる。
よし、そのままパクッと!パクッと……なんで私の口に突っ込むのかな。

「何か入ってますねこれ。顔に書いてありますよ。騙し討ちするならこうでもしなきゃ駄目です」
「うぇっ」

ちょっと、捻じ込まないでよ。詰まる。というかそれ口に入らないから。
問答無用でおにぎりが口の中に捻じ込まれ、思わず嗚咽が漏れるけど吐き出そうにも大きな手で口を塞がれて無理だ。

なんで私が食べなきゃいけないの。というかこれ、これ……。

「どうしました?よく噛んで食べなさいよ」

そんなお母さん節いいから。その顔怖いから。
丸飲みできるはずもなく、口いっぱいの米を噛み締める。そうすれば中に入れた具が、唐辛子が口の中を刺激する。
辛い。辛すぎる。自然と涙目になって口の中がヒリヒリする。水で流し込むのもいいけど、やっぱり口は塞がれてるから無理だ。

「自分で作ったものでしょう?残さず食べなさい」

私がそのおにぎりを飲み込むまで、鬼灯さんはがっちりと私の口を押さえていた。


***


思い出したらまた腹立ってきた。あれしばらく口の中痛くて何も食べられなかったんだよなぁ。
それをいいことに目の前でおいしそうなもの食べてくるし…。
あぁ、嫌だ嫌だ。何か手はないものか。やっぱり直接熱湯釜に突き落とそうか。
でも絶対落とされるの私だし。一応わかってるよそんなこと…。いや、道連れって手も。いやいや、刺し違えるのは最終手段。

「本っ当にもう……ここの金魚草全部枯らしてやるか。そうだ、刀で横一線に薙ぎ払ったら爽快かもしれ……」

相変わらずキモかわいい動植物を見て良いこと思いついてたら、なんだかすっごく寒くなった気がする。
後ろに殺気みたいなの感じるし、振り向かなくても誰だかわかるよこれ。足音が近づいてくる。逃げなきゃ。逃げなきゃ殺される!

「ぶへぇっ」

いやぁ、女の子とは思えない声が出たよ。というか痛い。金棒は投げるものじゃなくて殴るものだよね?
床と仲良くしていれば帯を掴まれて持ち上げられた。くの字にして持ち上げられた。
私160センチで女性の中では平均くらいだけど、こんなに軽々持ち上げますかね?いや、あの閻魔大王投げる人だし子供と同じか。
というか苦しい。お腹に帯がめり込んで苦しいんですけど。それに金棒が当たった背中クソ痛い。

「また悪巧みですか?私の金魚草に何をするって?」
「しない!しないから離せ!」
「最近肥料を変えてみようと思ってて……」
「すみませんでした。とてもかわいらしい金魚草でございます」

それは何か。私を肥料にするということか。土に埋まるなんてごめんだ。
怖い怖い。普通にコイツの顔怖いから。その目で人殺せるから。
なぜ謝ったのに離してくれない。そう思っていれば、鬼灯さんはさらに私をグイ、と持ち上げた。

「熱湯釜、いい具合に温まってると思いますよ」
「……!!?」

聞かれてた!最初から全部聞かれてたよ!盗み聞きなんてさすがにいい趣味してる。だからこんなに怒ってるのか。
あ、ちょっと、なんでそんな左手振りかぶってるわけ?しかも横に。横?ちょっとそのまま行くと私のお尻に…。

「いったい!ちょっと、本当にそれはっ、いたっ」
「いい音が鳴りますね」

お尻ペンペンとか。だからあんたはどこのお母さんだっていうんだよ。
しかも一回一回が強烈。すごい音鳴ってるよ。私のお尻から鳴ってる音なのこれ。

「セクハラ!報告してやる、クビになれ!」
「そんな報告一捻りです」
「く…汚い…」

実際本当に一捻りだろうな。そうじゃなかったらパワハラで訴えているところだ。職場改善を申し込んでいる。
お尻がヒリヒリして余計痛い。どうすれば逃げ出せるのこれ。
無表情でレディのお尻を叩くとか最悪だ。謝ってもやめてくれないし…。

そうだ。掴まれているのが着物の帯なら逃げる方法はある。着物を脱げばいいんだ。中には肌着の襦袢を着てるから、走って逃げて部屋に閉じ篭ればいい。
いかにして早く脱ぐかが鍵になるけど、呆気に取られて油断ができるだろう。その間に逃げる。
また金棒が飛んできそうだけど、さっき投げたせいで金棒は手元にない。
廊下を曲がってしまえば死角になって金棒は飛んでこない。

よし、いけるぞこの作戦。

「逃げ出す方法を考えてるなら無駄ですよ」
「うっ…すみません許してください」

なんて。
手がお尻に当たり次のために引いていく。今だ。
帯を緩めて体を回転させる。反撃だと思っている鬼灯さんの顔面に蹴りを入れる真似をしながら…着物を脱ぐ!
するりと体を滑らせて脱いだ着物で視界を遮れば成功だ。あとは全速力で逃げる!

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