身内に優しい鬼神様


『贔屓して何が悪い』

「だからそれはさっきも言ったように…」

鬼灯は朝から処理に追われていた。
ある地獄の手違いにより亡者が凶暴化し、獄卒もそれを抑えるのにてんやわんやだったのだ。
ようやく落ち着いた今でも、書類上のやり取りが残っている。
対処しきれない獄卒が何度も確認に訪れ、鬼灯はかなり苛立っていた。

「チッ……誰ですかね。重要書類をなくした馬鹿な獄卒は…」

その獄卒のせいでこの混乱が起きたのだ。大事には至らなかったが、指導だけでは済まない。
鬼灯はその地獄の責任者たちのリストを眺めながら、その日誰が書類を持っていたのか確かめる。
そんなとき、法廷に泣きそうな顔をした獄卒がやってきた。
額に棘のような小さな角を生やした女獄卒。ぎゅっと口を噤み、瞳は涙で光っていた。

「名前、どうしたんですか?」

慌てて駆け寄る鬼灯は優しく名前の頭を撫でた。声色もイラついたものから急に優しくなる。
彼女は鬼灯の妹なのだ。

「鬼灯様すみません…大事な書類をなくしたのは私です。ごめんなさい…!!」

震えた声で頭を下げる名前に鬼灯は目を細めた。
肩を叩き顔を上げさせる。今にも溢れ出しそうな涙は、ひとつ零れれば留まることを知らないだろう。
鬼灯はもう一度名前を安心させるように頭に手を置いた。

「大丈夫ですよ。こんなの朝飯前です」
「でも……」
「名前のせいじゃない。名前に任せた上司が悪いんです」

さらりと責任を押し付けられた上司は今頃どこかでくしゃみをしているだろう。
名前は鬼灯の言葉に戸惑いの色を見せた。
しかしこんな贔屓は今に始まったことではない。

「ありがとうございます、鬼灯様」
「かわいい妹ですから当然です」

ぺこりと丁寧に頭を下げた名前は仕事に戻っていった。
駆けていく名前を眺めながら、鬼灯の機嫌はいつの間にか戻っていた。
さっきまでイライラしていたのが嘘のように優しい顔をしている。

「相変わらずの妹贔屓…」
「何か言いましたか?」

呟いた閻魔は鬼灯に睨まれて首を竦めた。

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