身内に優しい鬼神様


『姉弟』

「鬼灯、ここの拷問方法は変更だね。見に行ったけどぬるすぎて寝ちゃうところだった」
「そうですか。やはり単調だと慣れてしまいますからね…」

法廷で報告をするのは鬼灯の姉である名前。
それに頷く鬼灯は、拷問の項目を確認しながらペンを走らせた。

「こんなものですかね」
「えー、ここはもっとさ、精神的にくるような感じに…」
「さすがですね。そうしましょう」

なにやら悪巧みのようにえげつないことを考える。名前は「そんな感じ」と嬉しそうに笑った。
その表情に大人しく業務していた閻魔が顔を上げる。

「鬼灯君のお姉さんなんだよね?やっぱり鬼灯君に似てるな…」

考え方や理屈が鬼灯にそっくりなのだ。
切れ長の目は、見る人によってはある種の興奮を抱くかもしれない。
虐げられたい、蔑まれたいと言う人もいるようで、衆合地獄で名前は人気の獄卒だ。

「名前さんが似てるんではなくて、私が似てるんですよ。先に生まれたのは名前さんですから」
「そういうこと。でも鬼灯の方が性格ひねくれてるよね」

つん、と眉間を人差し指でつつけば、鬼灯はさらに眉根を寄せた。
名前はからかうように笑い、反撃をひらりと簡単に避ける。
そうすれば鬼灯も諦めてため息を吐くしかない。名前も鬼灯同様、かなりの運動神経の持ち主だ。
それは弟である鬼灯がよく知っている。

「では、私はこれで失礼します。閻魔様、鬼灯にいじめられたら言ってくださいね。慰めてあげますよ」
「う、うん……君もかなりわしに厳しいけどね…」

鬼灯とは違い表情豊かなのもある意味怖い。ニコッと微笑めば何かを企んでいるように怖いのだ。
閻魔はそんな名前に手を振った。名前が法廷を去っていく。
鬼灯は「あ」と声を上げた。

「姉さん、衆合地獄の拷問器具リスト、早めに提出するように言っておいてください」
「はーい」

振り向かずに手を上げた名前は、そのまま法廷をあとにした。
鬼灯はやれやれと一息つき、再び書類に目を落とす。
閻魔は今のやり取りに目を瞬かせた。

「鬼灯君って名前ちゃんのこと…"姉さん"って呼ぶんだ?」
「……」
「痛い痛い痛い!!」

閻魔の頬には金棒が押し付けられ、鬼灯は鋭い目つきで睨みつけた。

「プライベートと仕事は分けてたつもりなんですけどね……」

咄嗟に呼んだため、ついいつもの呼び方になってしまったのだ。
仕事のときに"名前さん"呼びなのは、普段そんなイメージのない鬼灯が"姉さん"と呼べば、からかわれるのは必至だからだ。
鬼灯は「忘れてください」と閻魔の頭を殴り、たんこぶをつける。
その様子を、名前は壁から眺めて小さく微笑んでいた。

「かわいい弟だなぁ」

クスクスと口元に手を添え、今度こそ法廷をあとにした。

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