仕事が捗らない理由


「というわけで、薬を処方してもらいたいんですが」

上司が休暇中なのをいいことに、仕事をサボって…いや、視察ついでに白澤さんのところにやってきた。
ろくなことがなかったここだけど、何か効果的な薬があるならほしい。
鬼灯さんも薬のことに関してだけは信頼できるって言ってたし。
薬を飲んでこの意味のわからない症状が改善できたらいい。
仕事が手につかないんじゃ、上司に文句も言ってられないし。

「集中力低下に体の火照り、イライラに倦怠感……」
「薬で改善しますかね?」
「うーん、なーんか違う気がするんだよね」

何が違うんでしょう。まぁ、専門的なことは白澤さんに任せよう。
私はその間兎をもふもふしていよう。かわいい。癒される。一匹持って帰っていいかな。
そんなことを思っていれば、白澤さんが私の手を握った。またこのすけこましは…。
そう思って振り払おうとしたら、白澤さんは真剣な顔で手を触っている。

あ、もしかして何か症状を見てるのかな。それなそうと最初から……いや、違う。
そういうフリをして手を引いて…抱きしめてきたよ!なんだよこの漢方医!
真面目に仕事してると思ったら、いつもと変わらずすけこましだったよ。

「離してください…よ!」
「ぶべっ!!」

白澤さんは店のカウンターにぶつかるのが好きらしい。それなら何度でもしてあげるんだけどね。
やっぱり来なきゃよかった。薬貰うのに何回投げ飛ばせばいいんでしょうね。すっごいめんどくさい…。
相変わらず復活早いし、さすが淫獣…間違った。神獣。早く薬ください。

「まぁ、なんとなく原因はわかったよ」
「でも今のは必要ありませんでしたよね」
「えー、あったよ?触らなきゃわからないこともあるからね」
「とんだ漢方医だ…現世なら訴えられてますよ」

それどころか犯罪になって捕まります。
でも原因がわかったのはさすがなんじゃない?
もうそこしか尊敬できるところがない。さ、早く聞いてさっさとお暇しましょう。

しかし聞いても全然教えてくれない。この人わざと話し伸ばして女性と話す時間を稼いでるよ。きっと毎回そうなんだろう。
あぁ、こんなときに桃太郎さんがいないから…。
あの人は白澤さんを止めてくれる貴重な人材だったのか。タイミングの悪いときに来た。

「薬を処方してください。こんなところで油売って上司に見つかったらまずいんで」

まぁ、今日は休みだけど。でもバレたらまずい。それに白澤さんって聞くだけで機嫌悪くなるし。
そんな私に白澤さんは「それそれ」と指摘した。
それって何のことですかね?仕事サボってること?

「僕から説明するのは嫌だから自分で気づいてほしいけどさ、ヒントは君の上司だよ」
「あぁ…やっぱりストレスですか」
「うーん、まぁ、ある意味ね?」

なんだか歯切れの悪い言い方をするなぁ。やっぱり鬼灯さんのこと嫌いなんですね。
名前を出すのも嫌なんだ。うんうん、嫌う理由はよくわかる。

それにしてもストレスかぁ…。いい理由になりそうだ。漢方医がこう言ってるんだから本物だよね。
早速閻魔大王に報告して部署を変えてもらおう。
あ、でもそれにはその上司の許可も必要なのか…くそう。

白澤さんは「ストレスに効く薬を出すよ」とやっと漢方医っぽいことをし始めた。
それを待ちながら思い出す。そうだ、今は桃太郎さんがいない。それならあの時貰い損ねた薬をゲットできるかも。ほら、上司に嫌がらせできる薬。
聞いてみれば、白澤さんは「あるよ」とニコッと笑った。是非欲しい。喉から手が出るほど欲しい。

「でも、タダで提供するわけにはいかないなぁ」
「お金なら払いますよ。とりあえず死なない程度に苦しめられるやつが欲しいです」
「名前ちゃん、アイツに何されてるの?」

薬の入った袋を受け取りながら、白澤さんは苦笑いを零した。
それはもう色々と。いつも死にかけてるんですから。
思い出すだけで腹が立ってくる。あの減らず口どうにかしてやりたい。
白澤さんはうんうんと相槌を打ちながら話を聞いてくれる。
愚痴を聞かされているのに嫌な顔ひとつしないなんて優しい。さすが女性の扱いに慣れている。

「名前ちゃんが今夜付き合ってくれたら、薬あげるよ」
「これありがとうございました。失礼しました」
「待って!冗談!」

相変わらずのアプローチ。白澤さんは私の手を握ると引き止めてきた。
その冗談、本気で言ってるからたちが悪い。白澤さんは私の手を握ったままニコニコと笑っている。
離してくださいと頼んでも、そんな気配はない。また投げ飛ばして欲しいんでしょうか。

「ま、いい薬あげるよ。タダでね。少しはアイツも危機感覚えるんじゃない?」
「本当ですか!?是非!」
「んじゃ、遠慮なく」

ちょっと、何で近づいてくるんですか!あの上司に飲ませる薬じゃないんですか。
白澤さんは私の首元に顔を埋めると、首筋に吸い付いた。

「白澤さん、ちょっと…!」

急いで引き剥がせば、白澤さんはまたカウンターに背中をぶつけた。
一体何をしてくるんだこのすけこましは。人がせっかく握られる手を我慢して話を聞いていたというのに。
首筋の違和感に手を当てていれば、白澤さんは「痛いよ」と言いながらニコッと笑った。
何かを企んでいるようで、満足したような、読み取りづらい笑顔。

「アイツにはいい薬だと思うよ?」
「冗談やめてください」
「本当だって。しかしまぁ、子供みたいだよね、アイツ。こんなことしても嫌われるだけだってのに。あぁ、でも効いてるのか」

白澤さんの言っていることが理解できない。最後の方は何言ってるか聞き取れないし。もう少しわかりやすく説明して欲しい。
結局のところなぜ私はこんなことをされたのか。
いや、すけこましだし、私が油断してたのがいけなかったか。

はぁ、とため息を吐きながら肩を落とす。対上司用の薬欲しかったなぁ。
そうこうしているうちに桃太郎さんが帰ってきた。これじゃあ悪巧みもできない。

「帰ります」
「その薬ならいつでも処方してあげるからね〜」
「いりません!」

ストレスの薬のお礼を言いながら店を出る。首を傾げる桃太郎さんには会釈しておいた。
結局色々あったけど、収穫は自分用の薬だけ。元々その予定だったしいいか。
変なことされたけど忘れよう。
そして大人しく地獄に帰って、仕事を再開させることにしよう。

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