悩んでもろくなことにならない


「そういえば名前、服変わったんですね」
「あぁ、はい。理由は聞かないで下さい(また怒られる)」

鬼灯さんは気がついたように指摘すれば、じろじろとその服を見ていた。
袴なんて珍しくないだろうに。
なんですかと聞いてみれば、鬼灯さんは顎に手を置いて

「馬子にも衣装ですね」

とか言ってきた。
言うと思ったよ。それ言われると思って何か言い返す言葉を考えてたけど、もう忘れちゃったよ。
本当に失礼なこと言う上司だな。そこはお世辞でも似合ってると言ってほしいものだ。
まぁ、端から期待はしてませんけどね。

「言い換えるとしたら何ですかね。服に着られてる、ですか」
「残念でしたね。予想済みですよそれも」

予想してましたとも。まさか本当に言ってくるとは思って…たわ。言うと思ったよこの人なら。
確かに中身がこれだから合ってはいるけどさ。着たときに私も思ったけどさ。
気に入ったんだから仕方ない。服なんて着てればそのうち見慣れる。

「予想されてるとは負けた気分です」
「当たって嬉しいです」

嬉しいのだろうか。よくわからない。
でも鬼灯さんが負けた気分って言ってるなら、私は気分がいい。

鬼灯さんは負けた気分が嫌なのだろう、何か考えている。
私はまだ悪口を言われなければならないのか。部下に悪口を考える上司って…。やっぱりろくな上司じゃない。

「何か思いつきました?」
「えぇ。普通に最初に思ったことでいいかと」

それはつまり第一印象?うわ、一番心に刺さるやつじゃないですか。
よし、言われる前に予想しておこう。
似合わないとかいまいちとか、微妙とか言われたら私も微妙に悲しいな。

「似合ってます。とても素敵で綺麗です」
「……!?」

は…え?あの鬼灯さんが褒めた。素直に褒めたよ。予想外すぎて思わず言葉を失ってしまった。
ときめくなよ私の胸。たかが似合ってると言われたくらいでさ。

恥ずかしい。普段そういうこと言わない人に言われると恥ずかしい。
閻魔大王とか、他の獄卒に言われてもなんとも思わなかったのに!
この上司、私が恥ずかしがるの込みで言ってるな絶対!

「……服が」
「…やっぱりそういうことかよ!!」

そうだと思ってた。わかってたよ!相変わらず上げて落とすスタイルで。
本当に、期待させておいてなんてやつだ。くそう。
また読まれましたか、と無表情で残念がる鬼灯さんから私は逃げ出した。

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