素直な気持ち


「もうなんか鬼灯さんが不気味なんですよ…どう思います?」
「どうって…とりあえず白澤様が死にそうなので離してください…」

会っていきなりセクハラしてきた白澤さんの首を締め上げていれば、桃太郎さんは「お願いします」と上司を助けようとしている。
しょうがなく力を緩めれば、白澤さんはドサリと床に倒れこんだ。
「死ぬかと思った」と言ってるからきっと大丈夫だろう。桃太郎さんは「自業自得ですよ」と手を貸すつもりはないらしい。

「…で、何でそれを俺に。というかここに来たら怒られるんじゃないですか?」
「アホな大王が天国の人材貸し出しについて確認してなかったから直接来たんです。鬼灯さんにバレたら絞め殺されるって泣き付くもんで仕方なく。こんな感じでどうですか?」

日程と人数を記した書類を渡しながら話が進む。こっちで了承のサインを貰ってまたあのアホが印を押せば完了だ。
桃太郎さんは「はぁ…」と気の抜けた返事をしながら書類を確認する。白澤さんはようやく立ち上がって服を整えていた。

「名前ちゃん…ちょっと抱きついたくらいで酷くない?」
「どうですか、桃太郎さん」
「はい、これでお願いします」
「無視!?」

淫獣が何か言ってる。確認も取れたし私はこのまま退散したいんだけど、いいだろうか。
不気味な鬼灯さんの話はただの世間話だ。常識人であろう桃太郎さんならまともな意見を言ってくれると思って。
騒いでいる白澤さんをクリップボードで殴れば、少しは落ち着いた。

「名前ちゃんさ、僕に風当たり強くない?アイツに影響されてるよね絶対」
「そうかもしれません。でも一応尊敬はしてますよ?薬のことに関しては」
「あ!結構前に目の薬届けたでしょ。お礼として今晩付き合ってくれな……」
「桃太郎さん、まずはこのすけこましが大人しくなる薬を開発した方がいいのでは」

再び床に倒れこんだのを見下ろしながら桃太郎さんに提案する。きっとそうすれば不幸な人が減るはずだ。
そうですね…と苦笑しながら、今度は手を貸すようだ。
白澤さんは起き上がるとニコリと笑って見せた。なんだかまた変なことを言い出しそう。

「でも名前ちゃん、アイツと付き合い始めてから少し変わったよね。楽しそうだよ」
「あー…それは俺もちょっと思います。鬼灯さんの名前出すと怒ってたのに、今は少し嬉しそうですもん」
「は!?」

何を言っているんだこの二人は。白澤さんはまだしも桃太郎さんがそう言うなんて。
つい大声を上げてしまえば、白澤さんはまた楽しそうに笑う。

「名前ちゃんさ、何かいいことあった?そうだな…アイツのことだからもう結婚の話とかしてるんじゃないの?」
「そ、そんなわけないでしょう!いくらなんでもそれはないです!」
「ふーん。まぁ、アイツが不気味なのは前からだよ。名前ちゃんは素直に接していればいいよ」
「珍しくまともなこと言ったな…」

感心する桃太郎さんに噛み付く白澤さん。本当に白澤さんも人の考えを見透かすというか、女の子の欲しい言葉をくれるというか…。
二人に鬼灯さんの話をしたのは少しだけ勇気が欲しかったのかもしれない。一人で考えていても悶々とするだけだ。
言い返す言葉も見つからず黙っていれば、桃太郎さんが背中を押してくれた。

「そろそろ戻らないとまずいですよ。うちに鬼灯さんが乗り込んでくるのは正直困りますし」
「えー…もう少しいてよ」
「あんたは黙ってろ。せっかくいいこと言ったんですから」

そんなやり取りを見ながら私は小さく微笑んだ。
桃太郎さんに応援されると純粋に嬉しい…隣のすけこましとは大違いだ。

「ありがとうございます桃太郎さん」
「僕は!?」

では、とあとにすれば後ろから声が聞こえた。白澤さんにも感謝はしてる。
いつも通りな感じで地獄を目指せば、少しだけ心が軽くなった気がした。
私ももう少し頑張ってみるのもいいかもしれない。

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