そもそもの始まり


このときからだ。私と鬼灯さんの攻防が始まったのは。閻魔庁に来たことが災難の始まりだなんて…。本当に就職先間違ったなこれ。
「反抗的で素晴らしい」「調教しがいがある」。そんな言葉を最初にかけられたのなんて忘れて挑発に乗ってしまったのが運のつきだ。
きっとこの時点で私は既に鬼灯さんの策略に嵌っていたんだ。本当に気に食わない。
思い出すと腹の奥から後悔というか敗北感が這い上がってきていてもたってもいられない。この感情はどこにぶつければいいのかな。
はぁ、とため息を吐けば鬼灯さんが戻ってきた。

「どうしたんですか?物思いにふけって」
「ここに配属されたときのことを思い出してました」
「あぁ…懐かしいですね」

鬼灯さんも思い出したのか目を細めて懐かしいと感慨にふけっている。
そのときの心情を知りたいよね。一体どういう思考で私を採用したのかとか。
聞いてもろくなこと言わないだろうからやめておこう。

「いきなりいじめられてびっくりしましたよ。あれおかしいですよね」
「それでも名前は辞めなかったじゃないですか。我ながら素晴らしい人選だったと思います」
「だって辞めたら鬼灯さんに負けたことになるじゃないですか。それだけは絶対嫌でした」
「そういうところが他の獄卒とは違うんですよね」

自分でもなんで辞めなかったのかが不思議だ。もうそのときから楽しいとか思ってたのかな。
客観的に見てみればそのときの私の気持ちがわかるかもしれない。でもそうしたところで恥ずかしくなるだけだからやめよう。昔のことは思い出すものじゃない。
でもあの時もし辞めてたら、と思うと鬼灯さんの策でも嵌っておいてよかったかもと思えてくる。
らしくない考えに頭を振れば筆を執った。鬼灯さんもそれに倣って巻物を広げた。

「恐らく私はその頃から名前のことを……」
「なんですか?」
「いえ、なんでもありません」

ぽつりと呟かれた言葉は聞こえなくて、またどうせ変なことを言ったんだろうと気にしないことにした。
そもそもの始まり。私のくだらない負けず嫌いが引き起こしたような気もするけど、結果的にはよかったような悪いような。
あの頃から私は鬼灯さんのことを…と考えて、その思考を掻き消した。絶対そんなはずはない。

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