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3

触れ合うだけのキスは、ひどく長く感じた。まるで俺の周りだけ時が止まったように。

しばらくして、またゆっくりと会長が離れて俺を見つめる。

「…なんで」
「…なんでだと思う?」

聞いてるのはこっちだ、と言い返してやりたかったけど不適に笑う会長に何だかムカついて全く表情を変えずにわかりません、と言ってやった。

「ったく、お前はこんな時まで冷静なんだな?ま、嫌じゃなかったからだろうがな」
「なんで」

嫌じゃなかったから、だなんてどうして断言できるんだ。

「だって、お前、俺のこと好きになっただろう?」

そう言って、会長はにやりと笑うとまた俺にキスをした。


「正直に言えよ。お前は俺を好きなはずだ。…正直に言えば、付き合ってやってもいいぜ」

会長の言葉に、俺は言葉を失った。相変わらず不敵に笑い、俺の頬から手を離そうとしない会長。
どくどくと、無表情な顔とは裏腹に心臓だけが激しく脈打つ。
俺は、目を伏せると小さくため息を一つ吐いて口を開いた。

「…あなたが、好きです。」

俺の告白に、会長の目がひどく嬉しそうに細められる。そしてそのままもう一度顔を俺に近づけて来たとき、俺は言葉の続きを口にした。

「…好きですが、お付き合いはしたくありません。ですから、付き合って下さらなくて結構です。」
「…は?」

俺の言葉に、あと数センチと言うところでぴたりと動きを止め眉に思い切り皺を寄せている。意味が分からない、とでも言いたいのだろう。それもそうだ。好きと告白をしておきながら、付き合いたくはないだなんて普通のやつなら言わないし望まない。

「何言ってやがる。親衛隊か?そんなもん気にしなくていいんだぜ。お前が俺を好きだってんなら付き合ってやるっつってんだろうが。今日からお前を俺の恋人にしてやるよ」
「お断りします」

もう一度、まっすぐに目を見つめながらきっぱりと断る俺に会長はますます怪訝な顔をした。俺が頬に置かれた会長の手をそっと外し、本を閉じて立ち上がり帰り支度をすると会長はぽかんとして俺を見つめていたが席を離れようとする俺の腕を慌てて立ち上がって掴んだ。

「ちょ、ちょっと待て!どういうつもりだ、何がお断りしますだ!お前が俺を好きなら恋人になってやるっつってんだろうが!」

まるで逃がさない、とでもいうように俺を掴む手にぎゅっと力を入れ声を荒げる会長に、俺はため息をついた。

「…だから、ですよ」
「は?」

わけがわからない、と困惑しきった顔の会長に向き直った。

「あなたは、『俺が好きなら付き合ってやる』と言いました。俺はね、そんなのは嫌なんです。俺があなたを好きだからだなんて理由で恋人になってもらっても嬉しくない。もしそんなんで恋人になったら、俺はこの先ずっとそれを理由に我慢しなくちゃいけない。
例えば、会長が浮気をしても。『お前が俺を好きだから付き合ってやってるんだろ?』って言われたら?例えば、会長が俺との約束をすっぽかしたりしたら?俺の誕生日や記念日、一緒にいたいと思う時やデートしたいと、抱いてほしいと思ったとき。
恋人としてやる全ての事に対して、『俺が好きだから』なんて理由でしてほしくない。そんな恋人なんていらない。…俺はね、俺が好きで、相手も俺を好きで。対等な恋人がほしいんです。どちらか一方の恋愛なんてしたくない。
…ですから、あなたとは恋人になりたくはありません。さようなら。」


そう言って今度こそ、掴まれている手を払って退室をした。

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