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9

「同時にユキ様は、不安も吐き出されました。犬の中には盲信的な者もいます。私が演じたように、ユキ様に執着してもう一度飼ってもらおうとする者が現れたら。あなたが過去の犬と相対することがあったとしたら、ととても心配されておりました。
そこで、私とご主人様でユキ様には内緒で相談して決めたのです。お相手である方の真の気持ちを試そう。ユキ様の過去を目の当たりにしてなお、ユキ様を受け入れてくれるのか。相手に負けずに、ユキ様の恋人であると言えるのか。もしそれで、あなたがユキ様から離れてしまうようであれば…、早いうちならば、ユキ様の傷も浅くてすむのではないかと…」

本当にすみませんでした、と頭を下げる新垣くんに、慌てて顔を上げてもらう。

確かに、すごくいやな思いはしたけど感謝もしてる。草壁ちゃんに対しての気持ちをもっと強く持てるようになったから。こんなことで離れようと思うなら、草壁ちゃんの恋人の資格なんてない。丸ごと全部大好きって言ったくせに、俺、覚悟が足りなかったんだなあ。

「新垣くん、ありがとうね。」
「いえ、私こそ…」
「それから、ごめんね。」

彼に向かって頭を下げると、新垣くんは驚いた顔をした。

「演技だったとはいえ、草壁ちゃんにあんなこと言うの、いやだったでしょ?だって、大事なご主人様がいるんだもんね。だから、ごめんね。」

いくら相談したからと言っても、大事な人以外にあんなこと言うなんて嫌だったろうに。それに、自分の大事だった人に自分が悪く言われるように仕向けるだなんて辛かっただろうな。だって、そのせいでもし俺たちが別れちゃったなら、彼はその業をたった一人で背負うことになるんだもの。

そこまでしてでも、草壁ちゃんのためならって行動できる新垣くんは、すごく優しいんだなって思ったんだ。

「…ユキ様があなたを選ばれたお気持ちが、よくわかります。どうか、ユキ様をよろしくお願いいたします。そして、ユキ様」

優しく微笑んで深々と頭を下げた後、俺の後ろに向かって声をかける。振り向くと、そこにはばつの悪そうな顔をした草壁ちゃんがいた。

「新垣…」
「ユキ様。おめでとうございます。絶対に、彼を離さないでくださいね。」
「…当たり前だよ。誰がなんて言ったって離すもんか」

ありがとう、とにっこりと笑って俺の隣に来た草壁ちゃんが、横からぎゅうっと俺に抱きつく。その時に気が付いた。自分の、体の異変に。



『ぜひ今度、お二人で我が主の屋敷に遊びに来て下さい』

そう言って新垣君は俺たちを残してその場を去った。新垣君がいなくなってから、草壁ちゃんは俺に抱きついたまま帰ろう、と言った。
こくん、と頷いて二人で草壁ちゃんの部屋に戻る。その間も、草壁ちゃんは俺にずっと抱きついたまま。無言でソファに座って、ちらりと隣を見て目が合って、何だか照れくさそうに二人で笑う。

「…先輩。ありがとう。」

俺の胸にすり、とすり寄りながら草壁ちゃんがつぶやく。

「さっきの言葉、すごく嬉しかった。上村先輩。あの時、僕、『別れても大丈夫』とか言っちゃったけど、撤回させて。きっと僕、先輩から離れたら生きていけない。大丈夫なんかじゃない。…先輩が、好きです。愛してるんです。セックスは…、あなたが望むなら、しなくたっていい。ただ、そばにいて。ずっと、恋人でいさせてください。」
「…草壁ちゃん…」

心を吐き出すような告白に、ぎゅっと胸が熱くなる。草壁ちゃん、お礼を言うのは俺の方だよ。受け入れることが出来なくなって、君に辛い思いをさせちゃったのに、そんな思いをしてでも俺を選んでくれるなんて嬉しいよ。

「…草壁ちゃん。」

俺に抱きつく草壁ちゃんの手をそっと握ると、草壁ちゃんは一瞬びくりと体を竦ませた。

「…あの、ね。草壁ちゃん。俺、俺…。ちゃんと、戻ったよ。」
「…戻った?」

俺の言葉に、きょとんと首を傾げる。俺はあー、とかうー、とか言いながらもじもじと太ももをすり合わせた。それに気づいた草壁ちゃんがごくり、とのどを鳴らしてその目が徐々に欲に濡れる。

「…前までは、怖かったんだ。草壁ちゃんに、前にお付き合いしてた子たちみたいに扱われたらどうしようって。あんな目で見られたら、どうしようって。そう思うと、怖くて怖くて、えっちできなかったんだけど…、」
「…なに?先輩。言って…?お願い…」

撫でまわすような動きで俺の体に回している手を動かす。ぞくぞく、と背筋を走る電流にはあ、と熱くなった息を吐き出すと、俺は自分の体に起こった異変を素直に口に出した。


「…今は、草壁ちゃんに触られてるだけで、熱い…。も、もっと、さわってほし…、っ!」

言い終わる前に、草壁ちゃんが俺の唇を塞ぐ。ぬるり、と熱い舌が口を割り入り、俺の舌を吸い上げて、歯列をなぞって、と執拗な深いキスをされた。
つう、と糸を引きながら離れた草壁ちゃんの唇を、うっとりと見つめる。

「…いいよ。今までの分、たくさんたあくさん、愛してあげる。センパイ。」

ぺろり、と唇を舐めて妖艶に笑い、そのスイッチの入った顔を見て、俺は完璧に勃起した自分に心から歓喜した。

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