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その日、善は湊が学校へ行っている間に一人の昼食を済ませ紅茶を飲もうとカップに注いだ。この紅茶は善のお気に入りで、住み込みで働くようになってからも常にキッチンに用意し食後にそれを飲むのが日課になっていた。
…あれ?この紅茶、こんなに濃い色だったかな…?
ふとカップに注いだ紅茶を見て少しの違和感を覚えたが、まあ自分が少し茶葉を多めに入れてしまっただけなのかも、とすぐに疑問を打ち消して紅茶を口に含んだ。
その時にこの紅茶を飲まなければ、あんなことにはならなかったのかもしれない。
ティータイムを終えた後、洗濯をしようとカゴに溜まった洗濯物を一つ一つ仕分けしていく。そのうちの一つである湊のTシャツを洗濯機に入れようと持ち上げた時。ふわりと香った湊の匂いに、善は何故かどくりと心臓が大きく跳ねた。
…っ、な、なに…!?
洗濯機に入れようとしたTシャツを掴んだまま体を硬直させる。一瞬何が起こったのかわからなかった。気のせいか、とTシャツを洗濯機に入れた時。
「あ…っ」
その瞬間、ふわりと香った湊の匂いに今度こそ善は自分の体に起こった変化に気づいた。
「な、なん、で…?」
自分の下半身を見て泣きそうになる。善は、勃起していたのだ。
どうして。なんで。わけもわからずただただ熱くなった体をどうしていいのかわからずおろおろとする。
どうして自分はこんなことに?確か、湊君のシャツを洗濯機に入れた時に…
まさか、と思いつつ震える手で洗濯機の中から湊のシャツを取り出し、顔を寄せてすん、とにおいをかぐ。
「ん…!」
そのとたん、善のペニスはまたどくりと脈打ち大きく天を向いた。
「あ…っ、はぁ、…っん…!」
シャツの匂いを嗅いでしまってから、善はもうそのシャツを離すことが出来なくなってしまっていた。いけない。こんなことしちゃいけないのに。頭ではそう思っていても自身を扱く手が止まらない。湊のシャツに顔を埋め、思い切りにおいをかぎながらペニスを擦ると脳天まで痺れそうな快感が体中を駆け巡る。
どうして。自分は、一体どうしてしまったと言うのだろう。湊の事は確かにかっこいいとは思っていた。姿を見るとドキドキしたし、話をするのも緊張した。でもそれは、ただこんなにいい男に今まで間近に接したことがなかったからで、自分とは正反対の湊に憧れのようなものを持っていただけで…。
「あ…っ、み、なと…、く…、みなっ…、と、…んっ、あ…!」
それでも、湊の匂いを嗅ぎその姿を思い浮かべるとどくどくと心臓が高鳴り自身はさらに高ぶっていやらしい汁をこぼす。一心不乱にペニスを扱き、湊の名を繰り返し呼びながら一気に快感を高め湊のあのどこか冷たいまなざしを思い浮かべた瞬間。
「あ、あ、ああぁ、あ………!!」
善はとうとう思い切り自身から白濁を吐き出してしまった。
あまりの快感に、痙攣が収まらない。こんな気持ちの良い自慰は初めてだ。
「みなと、くん…」
「なに?」
余韻に目を閉じ、震えながら湊のシャツの匂いを嗅いでその名を呟いた瞬間。洗面所の扉の方から声が聞こえて善は一瞬にして我に返った。
「なにしてんの?…それ、俺のシャツだよな?」
まさか。どうして、ここに。いつから。恐ろしくて扉の所に立っている人物の方を向くことができない。ただただひたすらに自分の正面を見つめたままがくがくと震える。
ふと自分に影がさし、湊が近くに来たことが分かっても善は顔を上げることができなかった。そんな善の横にしゃがみ込み、無表情で善をじっと見つめる。
「…なあ、何してたの?俺のシャツで。下半身丸出しにしちゃって。きったない精液ぶちまけて。なあ、家政夫さん?」
湊の言葉に、善は死刑宣告を受けたような気分だった。
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