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このお話はファンタジーで、孕み、出産、そして少しですが18禁表現があります。
苦手な方はご遠慮ください。
美形×美形です。
なお、作中に出てくる能力などの名称は本来の意味を持つ言葉を少しいじって使用しており、架空のものになります。
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まったくもって気に入らない。
『グオオオオン!』
「だめだ!抑えきれねえ!」
「はやく!はやく、フェンガーはまだか!」
ゴオン、ゴオン、と重いもので分厚い何かを叩く音が校内に響き渡る。
身の丈三メートルは越えるであろう体に白い毛並みを震わせ、大きく裂けた口からは鋭い牙が覗いている。真っ赤に染まった瞳、長く飛び出た角、そして爪。
狼にも似たその異形の者は四方を囲む光の壁を叩き割ろうと力の限りに拳をふるう。
異形の者に向かって四方から手を伸ばし光の壁を作って抑えていた人間たちはその額に汗をにじませ、抑えるのがもう限界であろう事は誰の目にも明らかだ。
「もうだめだ…っ!」
ガキン!と鈍い音が響き、ついに光の壁が破壊されようとしたまさにその時である。
『捕獲』
もう一度、と大きく拳を振り上げた異形の者の体に、光の輪っかがまるで輪投げの輪のようにすぽりとハマったかと思うと瞬時に縮まり異形の者を捕らえた。
『グァアア!』
光の輪に締め上げられ、身動き一つ取れなくなった異形の者はその場にズシンと倒れ込んだ。
「情けねえやつらだな。こんな中級レベルのザッヘくらい仕留められねえのか」
赤の髪を靡かせ、絶望の場に舞い降りる姿はさながら断罪の天使のようだと人は言う。
異形の者をいとも簡単に捕獲した人物。
学園の生徒会長である、アルフレートだ。
「会長!」
「アルフレート様ー!」
わっと湧き上がった歓声に片手を上げて静寂を促し、先ほど捕らえたザッヘと呼んだ異形の者へと歩を進める。光の輪に縛られたその者に近づくと、身動きの取れぬままザッヘがおびえたような目をアルフレートへと向けた。
「恐れるな。何もしない。ただ、変異が解けるまで隔離するだけだ」
「会長!」
ザッヘの傍らにしゃがみ込み、そっと手を伸ばすと後ろから1人の生徒が駆け寄る。
「会長、手伝います」
「いや、いい。捕獲したとはいえ暴れると危ない。」
一年生だろうか。初めてみるその生徒はにこにこと人当たりのよい笑みを浮かべて制止を促したアルフレートの言葉を聞かずにどんどんと近付いてくる。
「おい、」
「だぁいじょうぶですよぅ。ホカクデキマアアス!」
近づくな、と生徒を止めようと立ち上がった瞬間、生徒に向かって伸ばした手を掴まれ、その生徒がみるみる姿を変えていく。
真っ赤に染まった目に、大きく裂けていく口がにたりと笑いアルフレートをつかむ手が大きく膨れていく。
しまった!こいつもか!
気付いた時には反対の手も取られ、そのままぐんと上に持ち上げられた。
「かああいちょう、ツゥカマエタアア!」
「…っ!」
「きゃーっ!会長!」
「会長、あぶないー!」
異形の者に姿を変え、アルフレートを持ち上げた生徒が大きく口を開け今まさに食いちぎらんと顔を寄せたその時、
『捕獲』
キン!と鋭い金属音が響いたかと思うと、アルフレートを捕らえていた異形の者を銀色の光がすっぽりと包み込んでいた。
「ぎぃあああ!」
大きな叫びと同時に、掴んでいたアルフレートから手を離しアルフレートはそのまま地面に落とされる。
「おっと」
「…っ!」
だが、アルフレートの体が地面にぶつかる前に、逞しい腕がアルフレートをしっかりと抱き寄せていた。
「大丈夫か」
「…コルネリウス」
漆黒の髪に金の瞳。アルフレートを支えるのは、アルフレートと並ぶ絶世の美男と称されるこの学園の風紀委員長、コルネリウスだった。
自分を助けた相手がコルネリウスだとわかるや否や、アルフレートはその支えている腕を思い切り振り払う。そして襟を正して立ち上がるとコルネリウスを忌々しいと睨みつけた。
「余計な世話だ。誰が貴様に助けて欲しいと頼んだ」
「…ああ、誰も頼んではいない。俺が勝手に助けたんだ。すまない、余計な事をした」
アルフレートの物言いにも腹を立てるどころか逆に自分に非があると頭を下げる。そんな姿もアルフレートは気に喰わなかった。
「貴様が来たのなら俺はもう用済みだな。失礼する」
「ああ、アルフレート。助かった、ありがとう」
緩く口元に笑みを浮かべて礼を言うコルネリウスに小さく舌打ちをしてアルフレートはその場に踵を返す。その後ろ姿をしばらく見つめた後、コルネリウスは現場の風紀委員たちに指示を始めた。
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