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9

野々宮はその日にエドを病院に連れて行った。やはり強姦されたようで、腸内がひどく傷ついていたらしい。とはいえ、適切な治療をすぐに受けることができたため、最悪の事態は免れた。

エドは働き者だった。料理もうまい。野々宮と暮らし、日に日に明るくなっていく。痩せていた体は少し丸みを帯び、髪や肌もつやつやと年相応にきれいなものになっていった。

怪我の後もきれいに消え、エドは本来の姿である美少年へと変貌した。

エドはとても美しい声をしていた。歌が好きで、家事をしながらよく歌を口ずさむ。

カナリアのようだな。

野々宮はエドの歌を聴く度、不思議と心が癒された。

「おい、真尋。お前最近楽しそうだなあ。」

にやにやと笑いながら、同僚が脇腹を小突いてきた。

「そうか?」
「ああ、幸せそうな顔しちゃってまあ。恋人でもできたか?」

恋人…?

「違うよ。弟がいるんだ、それで毎日楽しくてさ」

恋人、と言われた時にわずかに揺れた心を無視して、わざと『弟』と口にした。
恋人なんかじゃない。俺が、恋人にしたいのは…

野々宮はここ最近思い出すことのなかった唐津を無理やり思い浮かべた。

「そういや聞いたか?今日さ、別の研究所から一人講義に来るらしいぜ。なんでもお前と同じ東洋人だそうだ。なんつったかな、カラス?違うな、カラ…?」

同僚の口から出た単語にどきりと心臓が高鳴る。まさか。

「…唐津、アキラか?」
「そう、それ!知ってんの?えらい天才らしいな、皆楽しみにしてんだってさ」

なんという偶然。久しぶりに、唐津に会える。

野々宮は久しく抱かなかった唐津への想いにひどく胸が高揚した。


やがて講義が始まり、紹介されて一人の男が講義室に姿を現す。

唐津。

野々宮は一年ぶりに見るその姿に涙が出そうだった。


「久しぶり。」

講義が終わり、休憩の合間を縫って野々宮は唐津へ声を掛けた。

「久しぶり。まさかこんなところで会うなんてな。元気そうで何よりだよ」

目の前で微笑む唐津に、じんと胸が熱くなる。会えてうれしい。

「俺、ずっとお前に礼がしたかった。ありがとう、唐津。お前がせっかく完成させたものなのに、俺は…」
「何言ってんだ。同じ研究をしてたんだろ?たまたま俺の方が早かっただけだ。あれはまぎれもなくお前のものだよ」

ぽん、と肩を叩かれて野々宮は思わず抱きしめたくなった。なあ、唐津。今でもお前は薬師寺を思ってんのか?

「それにしても、なんかお前ちょっと太った?一人暮らしにしてはネクタイもシャツもピシッとしてんなあ、元々几帳面だっけ。」

唐津に言われ、ふと自分のネクタイに目をやる。ネクタイもシャツも、エドが洗濯をしてきちんとアイロンをかけてくれたものだ。

「いや、一人じゃないんだよ。今同居人がいてて…。その子が、俺の代わりに家事してくれてるんだ」

洗濯かごを持ち、ぱたぱたと忙しく部屋を動き回るエドを思い出して顔がほころぶ。

「…お前も、いい奴見つけたんだな。」
「え?」

野々宮はぱちくりと目を瞬かせた。いい奴、だって?何言ってるんだ?俺は、俺は、お前が…

「唐津」
「あ〜あ、俺も太陽に会いたくなっちまったな。」

薬師寺を思い、ふわりと笑う唐津に野々宮は何も言えなかった。

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