クラウン

「なまえ、飯食うぞ」
「え?」

四時限目終了のチャイムが鳴り響いて、さあ物間の元へ行こうと思ったらこれだ。正直な所、心底驚いた。
まさかあの目を釣り上げて怒る爆豪が言うようなことでもないし。
どちらにせよ私は物間と食べる約束をしているから断らなければならない。

「すまん爆豪、私このあと――」
「その爆豪って言うのもやめろ」
「は?」

流石に私の、ただでさえ弱い頭では理解出来なかった。
名前すら呼ばれるのも嫌なのかもしれない。それよりも、とにかく急すぎた。
じゃあなんて呼べばいいかな、と控えめに見上げる。
彼は「そんなもん一つしかないだろ」と威圧感をじわじわと押し出している。
私が思うものでいいのだろうか。ほんとに名前すら呼ばれたくないか、それともイケメンが「名字で呼ぶなよ」的なことを言った時は大体あれだ。

「えと、勝己」

キレられたらどうしようかと思いつつ呼んだ、爆豪の下の名前。
ちらりと見た彼は満足そうな顔をしている。
ああこれで良かったのか、とほっと胸を撫で下ろした。でもそういうことじゃない。

「ごめんね勝己、私約束があるから」

じゃ、とその場を立ち去ろうと扉の方を振り返った時、丁度物間が来ていた。お弁当を持っていそいそと駆け寄る。
また今度、と爆豪――もとい勝己に手を振りあげた。


それからの物間は見たことがないくらい険しい顔をしていた。
あまり機嫌がよくないのだろうか。せっかく二人で昼食だというのに。
でも原因を聞くのもなんだか憚られて、結局私からは話しかけないことにした。
そう決意したばかりだというのに、彼は私に向けて「ねえ」と一言口にした。

「あのツンツン頭とあんなに仲良いんだ?」
「爆豪勝己? 最近ね、話すようになったんだよ」

襲撃の時ちょっとお世話になって、とお弁当の唐揚げを食べながら答える。
ふうん、と彼は不服そうだった。私にはその理由がわからなかいけど。
話しかけられた以上話を続けておかなきゃ、という使命感に駆られて「物間こそB組どう?」と何気ないことを聞いてみた。
彼は青い瞳をこちらに向けることなく、答えることもなく、黙々とラーメンを食べている。
自分の質問だけで、あとは答える気分ではないらしい。
いつの間にか食べ終わっていたお弁当の蓋をしめて手を合わせた。
既に食べ終わっていた物間の手を引いて、教室へ戻る道を歩く。

「あのさ、」

先程よりも機嫌が悪くなった物間の声が、静かな廊下に響く。

「なに、」

すごく不機嫌そうな彼の声がとにかく怖くて、私は振り向きたくなかった。
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