夢を食らう
私があいつと知り合ったのは、中学一年生のときだった。県外から引っ越してきて、そしたら隣の家にあいつがいたから。
知り合いたくて知り合った訳では無い。でも結果的に、知り合ってよかったと思っている。
「ねえ物間、」
私の肩に頭を預けているそいつに声をかける。反応はない。
休むことなく携帯をいじっているくせに返事はしないのだから、無視しているのだろう。
もう一度声をかける。先程より少し大きめに。
「物間ってば」
「今いいところ……何? なまえ」
「頭重いんだけど」
チッと舌打ちをしながら、こちらを見ずに返事をする物間に、先程からずっと思っていた不満を当てた。
この間USJに襲撃があったばかりで、その怪我が完治しきっていないというのに。いやもう全然痛くないんだど。
そう告げれば、もそりと彼の頭が持ち上がる。
彼はじっと私の目を見ながら、死ななくてよかったって存在を感じてたかったとか、そんなことを言った。
「頭乗せてたいだけでしょ」
ばちんと彼の額にデコピンして、呆れて笑った。
いつもこんなにくっつかないくせに、こういう時ばっかりくっついて。
なんて野郎だ。そう思ったけど飲み込んで、今度は私が彼の肩に頭を預けた。
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隣のクラスとは言えどクラスの違う私達は、学校についたら私と彼は離れ離れになってしまう。
隣に彼がいたという温もりがどうしても名残惜しかったけど、教室に入ったらそんなの忘れてしまった。
おはようー、と朝から元気に挨拶してくれるクラスメイトに私も元気に挨拶を返して、淡い金髪のつんつん頭の前の席に座った。
「おはよ、爆豪」
あ? と元から鋭い目をさらに鋭くさせてこちらを見る。怖いよ、と少しだけ笑う。
彼はこの間のUSJ襲撃事件から仲良くなって、入学当初は全く話せなかったものの今ではこうして話せるほどになっていた。
「悪ぃ、」
「いや爆豪の目つきが悪いのは元からだからいいよ」
「あ゙ぁ?」
素直に謝ってくるものだから、そのまま思っていたことが口から出てしまった。
やべ、と思った頃にはもう遅くて、目の前の彼はそれはもう恐ろしく目を釣り上げていた。
悪気はなかったんだけどと弁解しても彼は聞く耳持たず。
こういう時はそっとしておくのが一番な気がする。
うそだよ優しいよー、と一言だけ怒っている爆豪に伝えてから、自分の席に向きなおった。
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