さとちゃんへ

今日は晴れた。本丸の桜が満開になった。
遠征部隊が見たことのない花を持ち帰ってくれた。
他にもいろいろ小さな幸せが積み重なって、昼下がりの執務室は、今日という日がとても良い一日になりそうな予感に満ち満ちていた。

さらに、いま目の前には一期一振の笑顔がある。
いつもよりずっと、やわらかくてうれしそうな一期一振の笑顔が。

「主、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう」

「ささやかですが、私からも贈り物を……」

「えっ!一期さんプレゼント用意してくれたの!?」

「はい……喜んでいただけると、よいのですが……」

「気持ちだけでもすごくうれしい!ありがとう!」

なんて素敵なんだろう。大好きな近侍がお祝いの言葉をかけてくれたばかりか、プレゼントまで用意してくれてたなんて。
こんなにうれしい誕生日は初めてだ。生きててよかった。

「……それでは聞いてください。お誕生日おめでとうの歌、作詞作曲歌一期一振。feat.鶴丸国永」

「おっと……?嫌な予感しかしないな……?」

まあいいか、こういうのは気持ちが大事なんだから。もう充分すぎるほど気持ちはもらった。
誕生日に近侍の一期一振(feat.鶴丸国永)から自作の歌をプレゼントしてもらえる審神者は、きっとそう多くはない。わたしは幸せ者だ。

「ンンン〜〜〜〜♪ハッピ〜〜バ〜〜スデ〜〜〜〜トゥ〜〜ユ〜〜♪ウォ〜〜ウォウ♪」

「どうした一期一振」

しかし、どこからともなく現れたスポットライトに照らされて歌い始めた一期一振の姿に、わたしは思わずそうこぼしてしまった。
な、……何?一期一振ってこんな子だったの……?
主いま一期一振の知られざる一面垣間見てるの?一体何が起きてるの……?

「ハッピ〜〜バ〜〜スデ〜〜〜〜ディア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」

「「主〜〜〜〜〜〜〜〜♪イェエ〜〜〜〜♪」」

あっ鶴丸国永来……えっ……帰ってった……。
鶴丸国永は、ハモり部分だけ歌うと、わたしに花冠を被せて部屋から出ていった。去り際に、開け放した障子の影から、顔だけ出してウィンクを飛ばすサービスまでしてくれた。やかましいわ。お前何なんだよ。

「ハッピ〜〜バ〜〜スデ〜〜〜〜♪トゥ〜〜〜〜〜〜↑ユ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜↑フゥウ〜〜〜〜♪↑」

「えっ、鶴丸国永もしかして主〜〜〜〜のくだりハモるだけなの!?」

「お誕生日、本当におめでとうございます。私からの贈り物はいかがでしたか?」

「えっ……ウン……お前作詞作曲してないやん……」

なんかこう、どうにかうまく褒めてあげたかったけど理解が追いつかなかった。ごめんね一期一振。

「さすが我が君、鋭いですね…!」

「う、うん……」

しかし一期一振はわたしのよくわからない感想にもうれしそうに顔を輝かせている。
えっ、めっちゃいい子じゃん……。なんか申し訳ないわ……ごめんなこんな主で……。

「実は私が手がけたのはアレンジのみです!驚きましたか!?」

「妙なとこ鶴丸国永に似てきたな一期一振……」

「えっ……そんな、私などまだまだ未熟者です……」

一期一振は嬉しそうにはにかんだ。

「何照れてんだよ褒めてねえよ」

「まあまあまあまあ、ほらお祝いのハグですぞ〜〜〜〜」

一期一振はにこやかに両腕を広げ、わたしが抵抗するより先にわたしを抱きしめた。刀剣男士の機動ヤバイ。

「えっ、いやちょっと……!」

お前わたしのこと、一期一振に極端に弱い女だと思ってないか!?さすがにこれくらいで絆されたりはしないぞ……!
そう、文句を言おうとしたとき、何かが割れる派手な音が聞こえた。
これだけの大所帯では、物が割れるのは珍しいことではない。特に気にもとめず、再び口を開こうとしたけれど、一期一振の肩越しに美男子と目が合ってしまった。
その美男子は目を大きく見開いて、しばらく静止していた。






「ま、マネージャー!?」

「壮五くん!?」

たっぷりと沈黙していた美男子、逢坂壮五くんは唐突に叫んだ。わたしも反射的に彼の名を呼んでしまう。
え?いやいやいや……なぜ壮五くんがここに。だってここは、本丸で、人間はわたししかいないはずで……?

「ま、まさか……壮五くんは刀剣男士だったの!?」

「ひどいよマネージャー!僕というものがありながら……!」

「待って壮五くんってそんな束縛彼女みたいな子だっけ!?」

壮五くんは悲しみに耐えられないとでも言いたげに美しい瞳に涙を浮かべた。
待って泣かないで……美男子に泣かれるとマネージャーもさすがに良心が痛む……!

「主!誰ですかその男!」

「ややこしくなるからお前喋らないで」

壮五くんのことをどう宥めようか必死に考えを巡らせていると、頭上から鋭い声が飛んできた。
頼むから空気読んでよ一期一振〜〜〜〜!

「そう……彼とは、僕の前でも堂々と抱き合うような仲なんだね……」

壮五くんがしょんぼりと言葉を紡ぐ。胸が痛い。
ていうか壮五くんに気をとられて、一期一振に抱きしめられていたことを忘れていた。

「えっ……?あっ!ちょっと一期一振離れて……!」

「嫌です」

「お、お前〜〜〜〜!」

お前には主を助ける気はないのか!主がっかりだよ!

「一期一振?それが彼の名前?」

「いや……まあ……そうなる、かな……?」

「僕のことは呼び捨てしてくれないのに!」

「え、ええ〜〜?」

そんな小さなことで嫉妬するのやめてよ〜〜!
子供かよ〜〜!

壮五くんの言葉を耳にした一期一振は上機嫌でしたり顔をした。

「ふふん、いいでしょう!私と主は相思相愛です!」

「なんでそんな火に油注ぐようなこと言うの!?」

「こんな一期はお嫌いですか?」

「好きだよ!わかってて聞くのやめてよ!お前そういうとこあるよね!」

わたしも……!一期一振に弱すぎるところある……!
今は壮五くんを宥めるのを優先すべきときだというのに、一期一振に悲しそうな顔をされると、ついつい甘やかしてしまう。
一期一振は、わたしの言葉を聞くとすぐに嬉しそうな顔をしてみせた。かわいい。

「一期も、主のことをお慕い申しております……!」

「その台詞今じゃないときに聞きたかったなー!なんで今言っちゃうのかなー!」

「僕に他の男との仲を見せつけて楽しい!?」

「違うの壮五くん誤解……っ!待って待って待って文机はアカン。文机は。落ち着こう。一度その手に持っているものを置くんだ。いい子だから……」

「………………」

「そ、壮五く〜〜ん?」

壮五くんは微動だにしない。頭上に文机を掲げたまま、まばたきもしないし口も開かない。

「壮五くん……?聞こえてる……?」

「…………て」

「え?」

「その男より僕の方が好きだって言って」

「えっ」

「何を愚かなことを!主が愛しているのは私です!」

調子に乗った一期一振はめんどくさい。
わたしは、好きだとは言ったけど愛しているとは言っていない。
これ以上話をややこしくしないでほしい。マジで。

「僕の方が愛されてる!」

張り合うなよ!壮五くん張り合うなよ!

「ではあなたは手入れされたことがありますか!?」

「レモンのはちみつ漬けもらったことある!おいしかった!」

理解できてないくせに張り合うのやめて……!
レモンのはちみつ漬けぐらいマネージャーいつでも作るから!いっぱい作るから!もう!壮五くんいとしい!

「クッ……!」

えっ?一期一振負けた?今の勝負一期一振の負けなの?

「僕だけ特別に手料理を振る舞ってもらったこともあるよ」

そうだね!君は味覚が特殊だからね!

「べっ、別にうらやましくなんか……!私は一つ屋根の下に住んでますし!」

「ぐっ……!」

今度は壮五くんが負けたの!?何なの!?何なのお前ら!

彼らに運命を委ねるよりほかなかったわたしと文机は、いつの間にか彼らから解放されていた。
一期一振と壮五くんは、わたしを置いてけぼりにしたままくだらない争いを続けている。
わたしには、呆然と争いの行方を眺めることしかできなかった。

……前言撤回。こんなに頭を抱えたくなる誕生日は生まれて初めてです。



20160402

さとちゃんお誕生日おめでとう〜〜〜〜!
おもしろくて優しくてとっても大好きです!

キャラ崩壊とかそういう次元を超えた崩壊具合でごめんね!許してほしい!
壮五くんが本丸にいたのは不思議な力が働いたからです。そこはね、深く考えてない。何らかの不思議な力がこう……アレしたんだろうね。


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