02





「あんなことしてる俺見ても、お前俺のこといい奴だって言えるか」




見上げた私にばっちりと目を合わせて、先輩が重くそう言葉を落とす。


…言葉がなかった。

だって、暴走は絶対に良い行為ではない。

世間一般の定義する「いい人」なら、あんなこと絶対にしないだろう。



私は先輩に対して、失礼なことを言ってしまったのかもしれない。

いい人だなんて気軽に言われたことに、腹を立てたのだろうか。

だから私を呼び出したんだ。




「…ごめんなさい」




かろうじて声を絞り出す。

何かあるとすぐに謝るのは、受けてきたイジメの中で自然と身についてしまった嫌な癖。

きっと先輩も、こんなふうにうじうじとした私なんか、嫌いだろう。




「先輩のこと、不快にさせてしまったなら、本当にごめんなさい…」

「………………」

「でも、私、先輩のこと悪い人だとは、思えないです…」




先輩は絶対に「いい人間」じゃない。

きっと私が目の当たりにした以上の酷いことを、たくさんしているのだと思う。

でも私には、いつも私を助けて守ってくれる安藤先輩を、悪い人だなんて定義することは絶対に出来ない。



私がゆるゆると頭を下げると、先輩は急に、自転車を止めた。




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