04
目の前の黒い壁は、知らない男の人だと、すぐに判明した。
彼は先輩の振りかざした手首を掴んで、ビンタを止めてくれていたのだ。
先輩は豆鉄砲を喰らったような顔をして、彼を見つめていた。
「安藤…さん」
「後輩イジメて楽しい?」
「…………っ」
「しかもこのイジメ、自分のブス露呈してることになるけど大丈夫?」
安藤さんと呼ばれたその人は、先輩たちを小ばかにしたように笑った。
先輩たちは彼のその様子に逆上することなく、むしろ萎みきってしまって、ゆるゆると腕を下ろした。
パッと彼が手を離すと、先輩たちは彼に頭を下げて屋上を逃げるように後にした。
「あの…」
「なに?」
「すみません。……ありがとうございました」
「別に」
彼はぶっきらぼうに応えると、自らも屋上を出て行ってしまった。
風のように現れて、風のように去っていく。
彼は、黒と茶色のツートーンヘアで、細い眉は斜めに釣り上がっていた。
眼光鋭いけれど、切れ長で大きな二重瞼。すっきりとした鼻筋。広い背中。高い背。先輩を掴んだ手のひらはとても大きかった。
どこを取っても、とてもかっこいい人。
私は一瞬にして、彼に恋をしてしまった。
2011/03/27
[ 6/51 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]