00-1
『主治医、最近大丈夫なん？目の下、隈できとるで？』
「あ、うん。仕事が大量にいきなり来てね。」
『それは大変やわ。また、"おーとぼっと"とかいうの見に行きたいから、今日は元気やし切るわ。・・・"帰る"の方がいいのかいな、』
「そうなるのかもね…。じゃ、事故には気を付けて。」
『え、えぇ。(何でそこを強調するんやろ)』
Before-Revenge
00:記憶
パソコンのアプリケーションを終了して、Webカメラの電源を落とす。１つ、短いあくびをして立ち上がる。そろそろ舞妓さんたちの昼の準備をしなければとお台所へ急ぎ足で向かう。今日は・・・錦市場で買った鮭を焼き鮭にして、切り干し大根のおひたしに常備のお漬け物と・・・お澄ましにしようか、と考えただけで料理の手は止まらない。
私はエルヴィア。ファミリーネームも付けるとエルヴィア・シェーター。凄い名前てしょう？でも日本では花咲美亜(ハナサキヴィア)で通している。
今は主治医の言い付けでカツラを付けてるけど、本当は男なんですよ。金髪で黒のメッシュが所々にあるんですよ。え、でも今女じゃん、ですって？
人には言えない隠し事が１つ２つぐらいあるんやから、少し黙ってくれまへんか。
ま、正直な所、隠しているんですけどね。舞妓はん10人分と私と大家さんの分をよそい、盛りつけていく。今日のお昼は時間があるのでこうやって一汁三菜できるんやけど、いつもはさっ、と食べれるものを作らないといけない。舞妓のお世話役も楽じゃない。
私は午後からお茶屋さんに行って和菓子を仕入れに行かなければならない。本当は大家さんの仕事だけど、生憎午後から舞踊のお稽古があるので任された。
「わぁ、美味しそうやね。」
「美亜ちゃん、いつもおおきに。」
「あ、美亜は午後から仕入れやね。うちらのこと気にせんと先頂き。」
『あ、すみません。お先に頂きます。』
舞妓のルールとしてさきに先輩が手を付けてから下の私達が頂くという暗黙のルールがある。
▼
『御馳走様でした。』
「やっぱり美亜の手料理は格別やわ。お店出せるで。」
「そうですね、魚屋さんの鮭に美亜の隠し味！ミスマッチどすな。」
「あ、美亜。夜、うどん食べたいわ。」
『はい、分かりました!!では、行ってきます!!』
からんからん、と下駄を鳴らして整備された石畳の上を駆けていく。すれ違う舞妓さんに"花咲はん、仕入れどすか?"と声を掛けられて、"はい!!"と軽い会釈をしたり。打ち水中の投扇興の女将さんに"また遊びにきいや、花咲はん。"と誘われたり。これ以上の幸せなんかないっていうほど充実していた。
「ちょっと、お嬢さん？」
『ふぇ？』
何故か声を掛けられた。振り返るとバイザーを付けた銀髪のイケメン。ニコッと微笑みかけると彼の頬が何故か赤く染まった。
「俺、道に迷っちゃってさ。ここの和菓子屋さんに行きたいんだけど・・・。」
『あ、"夜魯厨屋"が読めないんですね。外国のお方？』
「あ、あぁ。そうだ。で、なんて読むんだ？」
『これ、"よろずや"って読むんです。奇遇ですね。私もそこに仕入れに行くんですよ。一緒に行きましょ。』
「よろしく頼むよ。」
本当に奇遇だ。道を尋ねてくる人を断る理由もないので少し帰りが遅くなると思っていたが、行き先が同じならすぐ片付く。"こっちどす。"そう言って京の歴史ある石畳をからんころん、と歩いていくのだった。
▼
『相浄(そうじょう)はん？花咲どす。・・・って、江村はん？』
「あれ、美亜ちゃんなの？悪いなぁ、旦那は別の仕入先に打ち合わせについさっき出たわ。」
『あぁ、でも大丈夫ですわ。和菓子を仕入れに来ましてん。』
「あ!旦那が言ってたアレね！準備するし、ちょっとくつろいどいて・・・。その方は？」
「あ、えっと『道案内してたんや。外人さんで夜魯厨屋に来たい言ってて、漢字読めなくてな。』
「そりゃあ、そうやわな。今和菓子出すから座っててな。」
「どうも、・・・えと、何が美味しい？」『ん?ならこの水無月美味しいで？』
「はいはい。水無月ね。」と言って江村はんは厨房へ消えた。この空間には彼と私の２人だけである。
「・・・探したぜ、アヤカ。」
『ん？』
「アメリカに、帰ろうぜ？」
『・・・アンタうちのこと騙したん!?うちと、アメリカと何が関係がありますん？うちは主治医と"おーとぼっと"を見に行く予定しかないんです!アンタに親切心働かした私が馬鹿者でしたわ、今すぐ去ね、去ね!!』
"おーとぼっと"に目を丸くした彼。すると苦虫を噛み潰したような顔で言葉を濁した。
「そのオートボットだが・・・知ってしまったらアメリカで保護しなければいけないんだ。」
『・・・！それは、大変どすな。しかし私もすぐこの京都を離れるわけにもいけませんし・・・そや、どうせ他に仲間いるんやろ？』
"アメリカ行き賭けて、ゲームしてみまへんか？"
- 14 -
[prev] | [next]