新米カレー ■ 「銀魂深夜の即興小説45分一本勝負」:2014/9/25


新米カレー







山口の両親と、萩で暮らす松陽先生から新米が送られてきた。
食べ盛りの自分達を気遣ってくれたのだろう。量にすると実に20キロの新米だった。

尤も、晋助と俺ならば二週間持てばそこそこいい「量」だ。
今更ながら自分達の食欲にびっくりする。
夏にこれなら、食欲の秋はどうなってしまうのだろう。

ひとまず先の心配は置いておき、予定していたシーフードグラタンは明日以降に延期するコトに決めた。
今日は夏最後のカレーを作ることにしよう。


「茄子、人参、ピーマン、オクラに…、あ、蓮根も入れよう」


夏最後のカレーは冷蔵庫の大掃除カレーだ。
今年の夏は野菜が安かった。来年もこうだといいが、どうにもそうはいかないのが世の中らしい。
コンソメスープの素を取り出し、味噌とウスターソースを取り出す。

グラタンに使うつもりだった海老とホタテは、思い切ってカレーに入れてしまうことにする。

出来上がったら目玉焼きを乗せよう。
半熟とろとろ。味付けは塩コショウで大雑把に。


― はちみつ、あったっけ、


調味料をまとめている箇所からフルーツの缶詰をよけると、ほぼ空の瓶が出てきてしまった。
はちみつは無しの方向で行くしかない。まあでも、ルーが甘口ならいいか。

そこで、あ、と思った。
冷蔵庫には辛口のルーしかストックがない。
いつも買い物に行くスーパーで、半額シールに負けて買ってしまった。
甘口だと思い込んで買ってしまったのだが、辛口だったと気付いたのは帰ってからだった。

「…まあ、いいか」

既に鍋の中では人参が程よく踊っている。
茄子もピーマンも切ってしまった後だ。もう後戻りは出来ない。

いつも晋助が食べるのは甘口のカレーだった。
もし駄目だといわれたら、どうにか食べてもらうしかない。

腹を括って息を吐き、冷蔵庫から取り出したルーの箱を勢いよく破った。









バイトから帰って来た晋助が、何も言わず後ろから抱きついてきた。
鍋の中にしっかり出来上がったカレーを見て、機嫌が良くなったのが分かる。

「カレー?」
「うん。山口から新米が届いたんだ」
「へェ、」
「シーフードカレーにしたぞ、海老もホタテも入ってる」
「うわ、豪華」

楽しげに笑った晋助に、ついついつられて笑顔が溢れる。
味見したときはそう感じなかったが、いままさに「辛さ」が舌を襲っている。

辛口の威力を少し舐めていたかもしれない。

「飯は?」
「もう炊けてる」
「流石、」

鼻歌交じりに呟いた晋助が、荷物をリビングのソファに放り投げる。
部屋に効かせた冷房とももうすぐお別れだ。
それにしても、今年は色々と贅沢しすぎているような気がする。

ふたり分の皿に、炊き立ての新米。
半熟に仕上げた目玉焼きはもう準備万端だ。

「なァ、もう食っていい?」
「俺もそのつもりだ」
「麦茶でいいよな?」
「飲むヨーグルトにしよう」

素早い俺の提案に、晋助は一瞬だけ首を傾げた。
いつもなら麦茶と即答していただろうにと思われたかもしれない。

リビングのテーブルに夕飯の準備が整った。
カレーに乗せた目玉焼きは、晋助にも美味しく映ったのだろう。
お、と短く上がった歓声に、心がすこし温かくなる。

「いただきます」
「いただきます」

ふたり同時に手を合わせ、向かい合ってお辞儀をする。
かちゃり動くスプーンに、ほんの少しだけ不安を乗せた。

― 大丈夫、だよな、

多分恐らく、耐えられない辛さではないだろう。
飲むヨーグルトは自分にしか分からない保険だった。



だが、始まった食事は早かった。
普段どおり喋りつつだったのだが、晋助のスプーンが止まることをしなかったのだ。

杞憂に済んだのならば良かったと胸を撫で下ろしたのも束の間で、晋助が真剣な目を向けてきた。

「なァ、」
「うん?」
「まだある?」
「え、」
「カレー」
「ああ、あるぞ」
「ん、」

ぬっと立ち上がった晋助が、台所へと消えていく。
晋助のカップを見れば、中の白は減っていない。やはり麦茶を取りに行ったのだろうか。

「あれ?」
「ん?」
「晋助、カレー食べるのか?」
「あァ、」

不思議だった。晋助は普段「おかわり」をしない。
しない、というより、あまりしないというほうが正しいだろうか。

「食べるのか…、」
「なに、残しといた方がいいの、」
「そうじゃなくて…、た、食べられるのか?」
「はァ?いや美味いけど。なンか、いつものより」
「…そうか」

じわじわと心が弾んでくる。
どうしよう、なんだか嬉しい。すごく嬉しい。

「…なあ晋助、」
「うん?」
「俺の分も食べていいぞ」
「そこまで食い意地張ってねェよ」
「食べて欲しいんだ」
「ふぅん…、なら食うけど」
「うん」


結局自分もおかわりをして、二日分のカレーは綺麗さっぱり鍋からなくなった。
食後のヨーグルトもしっかり食べて、流石にやってきた眠気に、ふたりして早々に白旗を上げそうになる。

新米と新たな成長の発見は、育ち盛りの胃袋と心をしっかり満たしてくれたようで。

「明日、先生にもお礼の電話しないとな」
「そうだな」
「報告もしておく」
「はァ?何の?」
「こっちの話だ」

むふふ、と笑ってしまった俺に、晋助は不服そうに腕を絡めてくる。
案の定後から痛くなった舌先に、ふたり笑いながらキスをしたのはそれから少しだけあとのこと。


やさしく甘いヨーグルト味のキスに、夢中になったのは俺のほうだった。


おしまい。



お題:「新米カレー」
提供元:「銀魂深夜の即興小説45分一本勝負」:2014/9/25 掲載分


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