中編・Dead or Alive | ナノ
番外)Trick or Treat!


 一杯やってくる、と母さんが出かけて5時間ほど経った。どうせ一杯で済むはずがない。戻ってくるのは明け方だろうといつものパターンから推測を立てたあたしは、そろそろ寝るか、とテレビのスイッチを切った。
 念の為にとポケットに忍ばせていたアメを取り出そうとしたところで、玄関前に人の気配を感じた。初めはカチャカチャという比較的小さな音だったが、ドアを叩く音へとシフトし、それはどんどん大きくなってゆく。
 思い当たる人物は一人しかいない。
 慌てて玄関に移動してドアを開けると、足を大きく振り上げた母さんがいた。
(セーフ!!)
 酔っ払った母さんの凶暴性は普段の3倍に跳ね上がる。今月も玄関扉を破壊されてはたまらない。というか鍵を開けられないほど酔っ払ってんじゃない! しかもミニスカで足を振り上げてたから見えてたぞ!?
 と、小言を言おうとしたら、
「おわっ!!」
 母さんが勢いよく飛びついてきた。たたらを踏みそうになりながらも何とか踏ん張った。
 ツンと鼻を指す臭い。
「酒臭っ! どんだけ呑んだんだ!?」
「やぁねぇ、ほんのちょっとよぉ。それより、とりっくおあとりーと!」
 にこやかな笑顔で娘(14)にお菓子をねだる我が母(29)に溜息を吐きそうになるが、ポケットのアメを取り出した。
「持ってたのぉ!? イタズラしようと思ってたのにー!」
「去年の仕打ちを忘れるワケないだろ!?」
「……何かしたっけ?」
「……もういい」
 ケラケラと笑う母さんに目頭が熱くなりかけたが、いつまでも玄関先で酔っ払いを抱えているワケにはいかない、と思い至る。
 風呂を沸かし直して、とっとと寝かせてしまおう。
 が、その前に。
「母さん、トリックオアトリート!」
「はい!」
 ふと湧き上がった悪戯心から、ハロウィーンの魔法の言葉を唱え返した。慌てふためく姿が見られればと思っていたのに、一度外に出た母さんは大きなボストンバッグを抱えて帰って来た。
「へ? もしかして、それ」
「ぜ〜〜〜んぶ悠のよ! ハッピーハロウィーン!」
 はい、手を出して。と、中から取り出したお菓子を次から次へのあたしの手の上に乗せてゆく。
「悠はコレが好きだったわよね。コレも。コレは前にテレビで見て、食べたいって言ってたヤツよ」
 デパートでしか扱っていない高級チョコから、駄菓子まで。母さんは手のひらから溢れてもお構いなしに、どんどん、どんどん乗せてゆく。
「コレ、うまそーだな。ありがと」
「どーいたしまして! さぁて、風呂入るかぁ」
 あたしをお菓子の山に埋めて満足したのか、母さんはうんと伸びをして風呂に向かっていった。
 マジマジと眺めるフリをして下に向けていた顔を上げた。
 壁の時計を見ると、まだギリギリで10月31日だった。
(絶対今、顔が赤くなってる……)
 どうせコレらは今日一緒に飲んだ金バッジのおっちゃん達から巻き上げたものだろう。ちゃんと分かっているのに、時々こうやって、子供のようなあの人に子供扱いされることが、どうしようもなく照れくさくて仕方がない。
(あーあ、しばらく顔見せらんないなー)
 空っぽのボストンバックに詰め直しながら、頬をペチペチと叩く。
「ねー! 冷蔵庫にビール残ってたー?」
 戻ってきた母さんの声にビクリと飛び上がる。
 やっぱり母さんは母さんだ。この酔っぱらいめ!!
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