中編・王様の耳はロバの耳 | ナノ
王様の耳はロバの耳 2


 一応、今の自分の現状を調べてみた。

 しかし、調べても調べても出てくるのは、現状に近いような遠いようなモノばかり。

 トリップって何ですか。旅行ですか。

 人類の英知・パソコンの検索結果として出てきた単語に首を傾げる。だが、これが今私の現状に一番近い答えだ。二次元に行けるとか……なんでやねん。

 人に聞いて調べてみるも、どうも、お兄様ことコエンマや、青い鬼ことジョルジュさんの話では、私はコエンマの妹としてずっとこの世界に居たらしく、彼らの中では齟齬がないようだ。

 それにしても少々ボケが目立つ性格だったらしいとはいえ、「今までの私ってどんなだった?」なんて聞いても訝しむこと無く教えてくれるってどうなの、記憶に無い私よ。

 まぁ、それはもういい。答えの出ないモノを考え込んでいても仕方が無い。

 それより、今は。

 ごそごそと懐から取り出した名刺サイズの厚紙を掲げる。

 間違いなくただの厚紙なのだが、私にはペカーと後光が刺して見える。


「フフフフ……、やっぱり思った通りだった。でもこれで、誰に何を言われることなく、存分に活動出来るってもんよ!!」


 フハハハハハハハハハ!!!!


 と、霊界の自室で高笑いをしていたら、女中の鬼さんに声を掛けられた。おおっと、もう夕飯の時間ですか、ありがとうございます! 今度おにー様に頼んで部屋を防音にして貰おうかな!


++++


 今日も健気に兄の命に従って任務を遂行中であります。目標は私の席より三つ斜め前で、真面目にノートを取っております!

 どうやらシャーペンの調子が悪いみたい。彼は何度もカチカチとノックしたあと、筆入れから別のペンに持ち替えたようだ。


(……よし、今日は掃除当番だった。ゴミを捨てに行く役は譲れないな)


 にやりとほくそ笑んだあと、ノートを綴る。授業のじゃありませんよ。一応二回目なので、何とかなるでしょ! と踏んであまり真面目に受けておりません!

 今書いたのは、彼がこの授業中アクビをした回数さっ。

 優等生とはいえ、午後一の授業は眠いよねー。しかもこの古典の先生の淡々とした朗読は眠気を誘うからね。あ、もう一度。これで計四回、と。


(やっぱり同じクラスとなると、取れるデータが段違いだわっ! おにー様ありがとう!!)


 しかもこの席は丁度彼を斜め後ろから観察できる近すぎず、遠すぎずなベストプレイスだった。日頃の行いが良かったとしか思えない。いや、閻魔様(一応神様)を味方に付けたお陰かもしんない。

 そんな事を考えながら、活動を続行するべく彼の後ろ姿に視線を向けた。

 昨日、肩のところが少々解れていたのに、今日は新品同様になっているえんじ色の制服。

 実際新品なんだろう。


(確かおにー様の話によると。昨日、霊界探偵くんを始めとしたメンバーで『妖魔街』って処に行ってきたんだよね)


 そういえば、そんな話をアニメでも見た気がする。確か彼って妖怪の一人と戦ってお腹にケガしちゃうんだっけ? 一緒に制服を破いていたから、新品になったんだろうな。

 ケガがどの程度だったが心配だけど、見ただけでは、特に引きずっている様子はなさそうだ。これで痩せ我慢だったらすごいけど。


(だからって、私が傷薬とか渡すのも怪しいしなー)


 結論。しばらくは様子見で。


(あ、五回目)


 疲れているのは間違いないらしい。


++++


「おい、弥美」

「何ですか、おにー様」

「……お前の報告書を読ませて貰った」

「どうでしたか? 結構自身作だったんですよ!」

「ば」

「ば?」

「ばっかもーーーーーーーーーん!!!」


 うわぉ! 急に怒鳴らないでくださいよ、おにー様!

 私はキーンと耳鳴りがする頭を押さえて蹲った。赤ちゃんなのに、肺活量あるんだから!


「全くお前というやつは……!! ワシが調べてこいといった内容は、奴が授業中消しゴムをかけた回数でも、弁当の中身でも、告白してきた女子の数でも無ーーーい!! しかも何だ、これは!!!」

「あ、ソレです。特にこれなんてベストショットじゃないかと思うんですが」


 コエンマの握る写真の一枚を指差す。そこには、ちょっとうつらっと居眠りをしそうで耐えている写真。

 お昼休みに撮れた幻の一枚だ。

 因みに同士にはかなり売れた。商売じゃないから、殆どばら蒔いただけだったけど。

 そんな私の回答に、コエンマはガーー!!と良く分からない奇声を上げて頭をガシガシと掻きむしっている。

 ……赤ちゃんで円形脱毛症にはならないように、気をつけてね、おにー様。ジョルジュさんにでも言っておくかな。


「それはそうと、おにー様」


 コホンと、咳払いを一つ。些か虐めすぎた自覚くらいはある。


「私に対象を監視しろ、と仰っいましたが、具体的に何を報告しろとは言ってませんよね?」


 私がズバリ、そう突きつけると、コエンマは言葉に詰まったようだ。ごめんね、正直君とはツーカーな関係じゃないから、本気で分からなかったんだ。

 きっと今の私は一時的に存在している偽の妹なのだろう。そんな後ろめたい思いから苦笑が漏れる。


「……あーそうであったな。……ハァ、特にコレという報告はいらんのだ。ただ、奴が怪しい行動を取りそうなら報告してくれ」


 ふーん、それは無いと思うけどなぁ。まぁ、それはアニメで得た知識だし、そんな情報はお口にチャックしておこう。


「了解です、おにー様。じゃあ明日からも引き続き活動してくるねー」

「ああ、よろしく頼む」


 コエンマの言葉に頷いた私は、自室へ足を向けようとして一つ報告していなかった事を思い出した。


「そうだ、おにー様」

「なんだ?」

「私『南野 秀一ファンクラブ』に無事入会出来ましたー!」


 高々と名刺サイズの厚紙を彼の前に掲げると、彼は見事にズッコケた。

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