中編・王様の耳はロバの耳 | ナノ
番外)お小遣いアップ大作戦


 事の始まりは、Ca○onの新作カメラが私のハートを鷲掴みにしたからだ。


「おにー様、お金ちょーだい!」

「働け」

「おとー様と同じことを言う……」

「当然だろう、お前もそろそろワシらの仕事を真面目に覚えたらどうだ」

「お小遣いアップしちゃったり?」

「よかろう」

「マジ!? じゃあやる! やります! で、何をすれば!?」

「落ち着け、弥美! ……そうだな、まずは現場を体験する事から始めるか」

「現場体験?」

「うむ。あやめ、頼めるか?」

「分かりました」

「え?」


 何が始まるワケ?


++++


「弥美様、宜しいですか? 櫂はただの道具ではありません。私たち案内人を人間界へ運んでくれるよきパートナーです。亡者を運んで来る役割も担いますから、霊界と人間界とを結ぶ橋渡しでもあります」


 くれぐれも、粗末に扱わないように。櫂の心を汲み、お互いが分かりあえば自然と。なんてあやめさんは言うけれど。


「……先生、無理です! 飛べません!」

「変ですねぇ……櫂に心を委ねてますか?」

「委ねてます、これでもかって程、身も心も委ねちゃってます!」


 あやめさんは優雅に櫂に腰かけてフワフワと浮かんでいる。

 私はというと、魔法使いが箒に跨るように櫂にまたがって、さっきから足でピョンピョン跳んでいる。


 これで飛べる日は来るのだろうか?


 おにー様が現場体験として私にさせようとした事は、霊界の花形(?)案内人の体験だった。事件は会議室で起きてるんじゃなく、現場で起きているからですね、わかります。


 だがしかし!

 私が現場に行ける日は、本当に来るのだろうか!?


 そんな私の情けない様子に、しきりに首を傾げていたあやめさんは、ポンッと手を打った。


「そうだ、坂の上から助走を付けて飛んでみましょう! 勢いを付ければ成功するかもしれません」

「却下です! キ○ちゃんが、それやって失敗してました!」


 滑って転んで大惨事になってたよね!?


「○キちゃんって誰ですか?」

「……黒猫を連れた魔女見習いの女の子です」


++++


 結局。

 特訓する事丸一日。ちょっぴり飛べました。

 地上から僅か10cm程度だけ。

 私以上に先生役を買ってくれたあやめさんの方が落ち込んじゃったのは悪い事をしちゃったなと思うけど。

 誰にだって、向き不向きはあると思う! そもそも櫂に乗って飛ぶのってどーなの!!


「おにー様、コレ終わりましたー」

「おお、では次はコレを頼む」

「アイサー。……にしても、おにー様、もうちょっとコマメに片付けておけや! 溜めすぎでしょうが!!」


 そして、案内人研修を断念した私は、おにー様の補佐というか書類整理のお手伝いをしている。まさかOLやってた経験がこんなところで生きるとは!!

 駄目な上司(おにー様)を叱咤しながら、今日もお小遣いアップ大作戦を決行中だ。

 霊界は今日も平和です。

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