中編・王様の耳はロバの耳 | ナノ
王様の耳はロバの耳 15


 私は野次馬の群れから出て彼女たちの方へ進み出た。


「話に割り込んでごめんなさーい、私は会員ナンバー31の早乙女 弥美です」


 突然の私の横槍に、争っていた彼女たちは少し呆気にとられたものの、みんな揃って私に邪魔だという視線を送ってきた。

 とくに一桁さんの視線がね。


「確か貴女、転入生だったわね。なかなかいい写真を提供してくれるって聞いたけど、たかが31番がでしゃばらないでくれない?」

「あらあら、お見知りおき下さっていたようで光栄ですねー。31番の何が悪いんですかコノヤロー」

「……口の聞き方には気をつけたらどう?」


 あんた、どこの女王様だ!とツッコミたいのを押さえて、私は一つ溜息を付いた。ああ、面倒事は避けたかったんだけどなぁ。


「いやね。先程の貴女のお言葉に感銘を受けまして。ひとつお尋ねしたいんですよ」


 私がそう聞くと、彼女は急に機嫌を良くして続きを促してきた。いやー感銘って言葉を使ったけど、貴女の意見を支持するつもりは無いんだけどね。


「貴女は、南野君のファン活動を楽しんでやってる?」

「……どういう意味?」


 このファンクラブは少々特殊だ。入会希望した人が全員入れるワケではない。

 ルールを守れない生徒、過去に問題を起こした生徒は入会出来ない。問題行動とは、ズバリ南野君に迷惑を掛けた事があるか否かだ。それに付随して風紀を乱す人もだね。

 問題行動をとったら即、腹を切れ! とまでは言われないけど、脱退を余儀なくされる。その他諸々、体育会系バリに厳しい組織だったりするんだな。


「正直に言いますとね、私は一人ひとりの活動の動機なんてどーでもいーんですよ。全く同じでなくても、似通った想いを共有しあって、楽しんで活動することがファンクラブに入る意義だと思ってるんですねー」


 ファンクラブの徹底ぶりが、非ファンクラブの生徒らの風紀を取り締まる役目も担っている。非ファンクラブの生徒らに、クラブのルールを暗黙の了解意識にまで持ってきているのだから。

 それゆえ、このクラブは学校側から公認のお墨付きを貰っている。ま、ファンクラブ会長のお力もあったんだろーけど。


「何が言いたいの? 私が想いを共有していないとでも? それとも貴女は、私があちらの彼女に『他のファンの気持ちを考えろ』と言った意味が分からない、ということかしら?」


 一桁さんは私を馬鹿にしたように口角を上げた。


「アハハハ、さっきからウダウダと何言ってるんですか。まるでファンの代表気取りな発言をしてますけどねー?」


 あーダメだなぁ。抑えようと思ってた怒りのボルテージが上がってきちゃったよ。


「貴女こそファンとして恥ずかしくないのかな? ファン活動の本質は、何?」


 私がそう問いかけると、一桁さんは「それは乱れる風紀を取り締まることよ。私はちゃんとやってるわ」と答えた。

 はーん? だったら大人しく風紀委員にでも入ってろってーの!!


「ぜんっぜん違います!!

 ファン活動の本質は、対象を愛(め)でる事でしょーが!!

 なのに貴女がしている事は、風紀を取り締まると見せかけた、クラブにおける自身の地位の確立じゃないの!!」


 ファンクラブの会員は、一部の非ファンクラブの生徒らにとってはある種の特権階級で、羨望の的だ。学校にカメラを持ち込めるのだって、ファンクラブメンバーにのみ与えられた特権だったりする。(ただし、その利益は共有するのがルール)


「ち、違うわ!!!」


 私の言葉に一桁さんは顔を真っ赤にして叫んだ。だが、怒り心頭の私は容赦なしに畳み掛けた。


「あっちの彼女の方が遥かにファンとして立派だよ? 行き過ぎ感はあるかもしれないけど、純粋に南野君を想っての行動なんだからね。

 どっちが食い物にしているんだよ。そっちなんて、自己のアイデンティティ確立のためでしょーが!!

 そんな活動のどこが楽しいのさ!!!!

 そんな事をされて、アイドルが、南野君が喜ぶとでも思っているの!?」


「……いや、たぶん南野にとっては、どっちに転んでもあんまり嬉しくな」


ドゴッ。


 おや?

 余計な事を呟く男子生徒その一を沈めてくれた人物を見て、私は目を丸めた。

 その場にいた一桁さんや二桁さん達もだ。


「貴女たち全員、生徒会室に集合です」


 ニッコリと笑う美人さんは、才色兼備な麗人・盟王高校副生徒会長であり、会員番号1番のファンクラブ会長だった。

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