王様の耳はロバの耳 14
前回のあらすじ。
自習時間に早乙女 弥美ことワタクシは、友人の海藤 優君とお喋りに興じておりました。しかし、彼はとても辛辣だったのです。ジャブを繰り出した私は見事に彼のカウンターアタックを食らってしまいました。
キーンコーンカーンコーーーンと授業終了のチャイムが鳴る。だが、私はもう起き上がる気力が無くなって机に突っ伏したままだ。
「ねぇ、早乙女さん」
「………………」
「あっちの方で何か騒がしくない?」
「………………」
「返事が無いね。ただの屍か」
「ちょーっと待てーい!! 勝手に殺すなっ!!」
「あ、起きた。ほらほら、彼女たち君のお仲間じゃない?」
「お仲間?」
海藤君の言葉に私は首を傾げた。
++++
海藤君と人だかりが出来つつある現場に野次馬になりに行ってみたら。
「あれま、ホントだ。あの子達みんなファンクラブのメンバーだわ。良くわかったね、海藤君」
二つの女子生徒のグループが対立している。
「あのグループはウチの高校でもかなり有名だよ。オレに言わせたら自己中心以外の何者でもないけど」
「……ははは。やっぱ辛辣だわ、君」
主に言い争っているのは、グループの先頭にいる二人のようだ。
「アンタらなんでしょ! 以前から南野君の体操服やノートを盗み出しているのは!!」
「言い掛かりはよして。だいたい二桁ナンバーが一桁ナンバーの私に意見するなんて身の程知らずよ」
「ちょっとナンバーが若いからってそれがどうしたのよ!!」
おおっと。
まだ手は出していないけど、結構危ない雰囲気のようだね。
海藤君が「ナンバーって?」と聞いてきたので、簡単に説明をしておく。ファンクラブには一人ひとりに会員ナンバーが割り振られている。そしてファンクラブの組織はナンバーが若ければ若いほど古参であり、組織における発言力が増す。
とはいっても、ナンバーが若い人ほどファンとしての意識が高く、ルールを遵守している。特にナンバー5以下の人達はファンクラブの会長と四天王が固めており、彼女たちはファンクラブ以外の役職を兼任する実力者だったりする。
ま、一桁ナンバーの中にも、たまーに彼女達みたいな例外もいるみたいだけどね。
ちなみに『南野 秀一ファンクラブ』ルールの第一条は「南野君に絶対に迷惑をかけない」という、まぁごく当たり前の事だったりする。私物を盗むというのは明らかな違反だ。下手をすれば犯罪行為だね。
え? 以前の私の行動はって?……それは、ほら。ギリギリセーフってことで!!←
「あんたみたいな最低な女は、南野君のファンである資格なんてないのよ!!」
「証拠も無いのに何を言ってるの? 大体、貴女の方がファンの資格が無いと思うわよ? さっきから私の方が南野君を好きなんだ、なんて喚き散らすだけじゃない。私達他のファンの気持ちもちょっとは考えたら?」
一桁ナンバーの彼女(面倒なんで以後一桁さんと呼ぶことにする)の言葉に、二桁ナンバーの彼女(彼女は二桁さんね)は押し黙った。ファンとしての彼女の良心が『他のファンの気持ち』に感じるものがあったのだろうか。
だが、彼女のその様子を見た一桁さんは二桁さんをせせら笑った。
「私も正直がっかりよ。貴女達の行動は、南野君を食い物にしてるだけ。 ああ、あえて悪い言葉を使ってるわ。理由は分かるわよね?
貴女達の行動は『私はこんなに南野君が好きなんだ』という身勝手極まりない自己主張に他ならないの。そこに彼を好きな他の人間の気持ちは全く汲まれていないわ。
貴女達が少しでも『そういった相手に配慮しよう』という意思があるのなら、他のファンと南野君の為にもファンクラブから脱退するべきよ。それが棲み分けというものではないかしら?」
「なっ……!!!」
ご立派な演説を述べた一桁さんの言葉に、二桁さんは絶句して青褪めた。二桁さんの後ろにいる子達は怒りの形相で言い返しているけど。
ちなみに、私もちょっとカチーンときちゃったんだー。
(へー、食い物? 棲み分けろ? それも可笑しな話じゃないかなー?)
べっつに行動動機なんて人それぞれなんだから、それを兎や角言うつもりは無いんだけどねー。
でもそれじゃ。
(楽しくないよね?)