- ナノ -
side:Nero

ネロは憂鬱だった──というのも、騎士団長であるクレドに呼び出されたからである。こういう呼び出しは、大抵、ネロの素行不良によるもので、毎度長時間に渡る小言を聞く羽目になるのだ。

「ったく、何なんだよ……」

ぼそりと悪態を吐き捨てて、ネロはここ最近の行動を思い返した。ううん。思い当たる事が多すぎる。

悶々と考えている内に身体はすでに団長室まで来ていた。腹を括って、木製のドアをノックする。少しの間を置いて、クレドの入室を促す声が聞こえた。
無言でドアを開けて、中へと入る。クレドともう一人──黒髪の女性の背中が見えた。書類束を持ちながら、何か小難しい単語をクレドに並べている。

「あぁ!どうも、あなたがネロくんね?」

「……アンタは?」

教団員特有の白い服を纏っているから、魔剣教団の人間なのだろうが生憎見覚えはない。朗らかに笑みを浮かべて手を差し出してくる彼女を見下ろした。

「彼女は技術局の──」

「クレド、挨拶くらいは自分でやるわ。初めまして、私は技術局所属のエリカ」

よろしくね、と言う彼女──エリカと握手をする。小柄なエリカの手はネロの物より二周りは小さかった。

それよりも──

「何で技術局?」

ネロは騎士団所属だ。技術局とは縁がない。わざわざエリカが会いに来る理由が検討もつかない。

「ネロ。この前渡した武器の使い心地はどうだ?」

「は?あぁ……悪くねぇぜ」

質問を別の質問で返されて、ネロは少し面食らいながらも答えた。
一週間ほど前に新しい武器──レッドクイーンを確かに受け取った。大剣に推進剤を噴射する機構を取り付けた変わった武器だ。赤い柄の根元にあるバイクのアクセルの様なバーを捻ると作動し火炎を噴くのだが、かなり重量があり並大抵の人間では扱うのは容易ではなく、騎士団員は皆遠慮し、結果ネロの手元に来た。
中々のじゃじゃ馬だが唸らせながら悪魔を切り捨てるのは悪くない。

「で、それが何かあるのか?」

「あぁ、いや……あれを造ったのは私なんだけど……重くしすぎたせいで自分も持てなくてね。でもネロくんが使ってくれていると聞いて、ぜひ会ってみたいと思ってクレドに頼んだの」

聞いてもいないことをエリカはぺらぺらと話し出した。つまりネロが呼び出されたのは素行不良ではなく。

「普通の剣より故障も多いからメンテナンスも必要だし、推進剤の調整とかもあるし……これから顔を会わせることも多くなると思うからよろしくね」

──ネロくん。
暗くて陰気で変人揃いの技術局員とは正反対に、にこにこと笑うエリカにネロはただただ頷くだけしか出来なかった。
聴色の微笑

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