- ナノ -

02:デルカダールでの生活
朝はメイドが起こしてくれる。促されるままに服を着て身支度を整えてから食堂へ向かう。朝御飯はマルティナと食べ、午前中はそのまま勉強時間だ。勉強内容は日によって変わり、今日は国語と算術だ。算術は頭を使うので少し苦手だが、家庭教師の教え方が上手いので苦痛ではない。
午後の時間は自由だが、ルーナはもっぱら魔法の勉強と実技訓練だ。グレイグやホメロスが暇をしていれば二人に会いに行ったり、何一つ不自由の無い暮らしだ。

食堂の扉の前にポニーテールの少女がいた。ナツキはその少女に駆け寄り、挨拶を投げ掛ける。

「マルティナ様!おはよう!」

「もう!ルーナ!様なんて付けないで!」

王女には礼儀正しくしなさいとマルティナのお付きの人に言われてから、慣れない言葉遣いでマルティナと接したが、どうやらそれはお気に召さないらしい。腰に手を当ててマルティナはぷくりと頬を膨らませた。

「でも……怒られちゃうもの……」

「じいやのこと?そんなの無視していいの!マルティナって呼んで!」

「えぇー……そういうの、おうぼーって言うのよ」

王女の特権で無茶を言うマルティナにため息をつく。マルティナは怒られないがルーナは怒られるのだ。たまったものじゃない。

「姫様、ルーナを困らせてはなりませんぞ」

朝食の準備が出来たらしく、じいやが扉の前にいた二人を呼びに来た。ふぉっふぉと笑いながらじいやは食堂に入るように二人を促す。

「困らせてなんかいないわ。同じようにしてほしいだけよ」

むすっとした顔をして、マルティナは食堂の中へ入り所定の席へ座る。その後に続いてルーナも座った。

綺麗に形成されたオムレツに、ソーセージが2本、フライドポテト、添えられた新鮮なミニトマトとレタス。バターロールが2つべつのお皿に乗せられている。今日もとても美味しそうな朝食だ。溢れてきそうな涎を堪えて、ナイフとフォークでぎこちなく朝食を食べ始める。

テーブルマナーも一通り教わったがそう簡単にできやしない。昔からマナーを叩き込まれたマルティナはルーナよりもとても綺麗に食べている。

「今日は何の授業だったかしら?」

「確か国語と算術のはず」

算術、という言葉にマルティナは嫌そうな顔をした。マルティナも数字は苦手らしかった。

朝食を終えたら、お勉強の時間だ。家庭教師のクリフが一つ一つ丁寧に教えてくれる。
孤児院では自分より歳が上の人達に教えてもらっていたが、彼らもきちんと学んだわけではないため、曖昧なことも多く答えに疑問もあった。それらの疑問をクリフはきちんと解決してくれた。ひとつを聞けば10の正しい回答をくれる。

テストはマルティナと勝負だった。

「今日の昼御飯のおやつは私のよ!」

「どうかなぁ〜?プディングは私が食べるわ!」

お互いのデザートを掛けて、テストをするのはとても楽しかった。孤児院とは正反対の生活。勉学のライバル。

"いつか君はマルティナ姫の一番そばで彼女を支えてあげるんだよ"

クリフが何度も言っていたその言葉はルーナの心に重く沈んだ。


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