城下町はいつも通りの穏やかな昼下がりだった。そんな中に騒々しい鎧の軋む音が混じる。
街の出入口は兵士が見張っている。盗賊がこそこそ隠れるならば下層のほうだろうとあたりをつけ、走り出した。
盗賊が隠れるのを好みそうな小道をしらみつぶしに見ていく。
「見つけたっ!マヒャド!!」
「うわっ……!マジか!」
黄土色のレンガ造りの建物の隙間に鴬色を見つけて、即座に魔法を放つ。盗賊は間一髪で氷を避けたが、体勢を崩して膝をついた。その隙を見逃さず、ボミエを掛けて盗賊の速度を落とす。
「ようやく追いつめたわよ!盗賊め!」
「クソッ……」
「武器を捨てろ。変な行動をしたらすぐにザキを唱えてやる」
盗賊に杖を突きつけ、動きを制限する。悪態とともに、短剣が地面へと投げ捨てられた。短剣を拾い上げてルーナは腰の道具袋に入れ、代わりに紐を取り出す。
「無能ばっかじゃねーってことか」
「残念だったわね」
後ろ手に縛り、無理矢理盗賊を立たせて小路を出た。丁度街を捜索していた兵士が側にいたので呼び止め、街の厳戒態勢を解くように指示をして、ルーナは盗賊を城へと連行する。
「わざわざお偉いさんが連行してくださるんだな」
「部下に任せたら貴方逃げるでしょう?」
減らず口を叩く彼にため息をつきながら、その肩を押し早く歩くように促した。
流石にルーナからは逃げれないと感じたのか盗賊は大人しく城の地下牢まで連行された。国宝を盗みに入った悪党だ。当然、城の最下層に放り込んだ。
「……レッドオーブは?」
「さぁな。どこにいったんだろうな?」
「言いなさい。貴方もずっとこんな所に居たくないでしょう?」
「知らねぇって」
持ち物を確認したのだが、盗まれたはずのレッドオーブが見当たらない。所在を盗賊に聞くが肩を竦めるだけだ。知らぬ存ぜぬを繰り返す盗賊にどうするべきかと額を押さえる。
「……まぁいいわ。それで、名前は?」
「名無しの権兵衛」
「答える気はないのね」
話にならない。牢の中で寛ぐようにだらしなく座る盗賊に呆れを通り越して尊敬すらする。私的にはこんな悪臭放つ劣悪な環境にはずっと居たくはない。
「もういいわ。ここで一生自身のの罪と向き合って過ごしなさい」
「なんだ。案外お優しいんだな。拷問でもして口を割らされるのかと思ってたぜ」
「お望みならして差し上げましょうか?ギラでじわじわ身を焦がしてあげるわよ」
「ははは、遠慮しとくよ」
軽口を叩く辺り、反省の色は見られない。ふてぶてしいというか。なんというか。
これ以上相手していても時間の無駄だと、諦めて牢の鍵を確認してから踵を返す。
「また来てくれよな。むさ苦しい兵士よりあんたが来てくれた方が華がある」
「私ここ嫌いだから、もう来ないわよ」
背中に向かって掛けられた声に仕方なしに返事をして、今度こそルーナは地下牢を後にした。
レッドオーブを盗まれたことを報告したら当然の如く陛下に激怒され、仕事のひとつにレッドオーブの捜索が加わることになった。ホメロスにはその失態を盛大に笑われ、散々な一日でしかなかった。
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