betray you あなたに背く
こちらを向いているラファエルの瞳からは、何の感情も捉えることができない。本心を隠すのが上手な男であった。
クロウはこの場でどう答えるか迷っている。他の準天使達が何事かとざわついている気配も感じていた。
「フェリートから悪魔の気配を感じた。それだけだ」
「……悪魔?」
ラファエルはフェリートの顔を伺き、ため息をついた。
「既にフェリートはクロウに怯え、オーラを探ることはできません」
フェリートは聖水が入っていた空のボトルを握りしめている。しかしその手をよく見ると微かに震えていた。
「フェリート、この後はどうしますか。一旦部屋に戻り今日は休んでも構いません」
「いえ、大丈夫です」
フェリートはラファエルの瞳を見て強く言った。この役目を1日でも他の準天使に任せたくはなかった。
このために幼き頃から毎日がんばっていたのだから。
フェリートを震える手を懸命におさえながら口をひらく。
「天界には通常悪魔など入ることはできません。アスモデウスの見間違いです」
「そうですね 」
ラファエルはフェリートへ柔らかく微笑んだあと、クロウへは厳しい目を向ける。
「クロウ、今日はもう帰りなさい」
「はーい」
クロウの適当な返事にフェリートの視線が厳しくなったのは分かったが、クロウはその場で方向を変え先程出てきたばかりの部屋へと戻った。
*****
クロウは先程きた廊下をそのまま戻る。
部屋に近づくにつれ強い天使の気配を強く感じていた。ここまで強く清らかなオーラは普段感じることはない。
この気配には物凄く覚えがあった。昔から親しみのある気配。
きっと当たるであろう嫌な予感を覚えつつ、ラファエルと暮らす部屋へと入る。
「おかえり」
我が物顔で椅子に腰をかけ、紅茶を飲んでいる美しい天使がそこにはいた。
「勝手に入るな、セラフ」
「まあまあ、いいじゃないか。ラファエルのいない時に来るのは結構大変なんだからな。いつもお前達は一緒にいるせいで、俺はお前と話す時間が全くもてない」
「別に話すことなんてない」
「今日は別だろ?」
いつでも何もかもお見通しの天使様である。
この天界において最高位に立つ存在で、その名を織天使 セラフィムという。
銀色に輝く髪に紫色の瞳。
翼を広げれば6枚の美しいものだ。
そのオーラは赤く、それも天使の中で唯一のものである。
通常は天使達が暮らす場所には居らず、天界にたつ塔の最上階に近い所で暮らしている。
準天使たちはセラフィムの姿など1度も見たことはないだろう。
ラファエルのような大天使は憧れの存在だが、セラフィムは神にも等しき存在であった。
何かを察してセラフィムがここに来たことは分かっていた。
「セラフ、何か感じないか」
「ここ数日何かの気配は感じる。悪魔のようで悪魔ではない」
「悪魔ではない……?」
「お前以外の悪魔がいるはずは無い。もし入ったら俺がすぐに分かる。しかし、何かはいる。しかし深くは探れないんだ」
「セラフにも探れない者ってことか?」
「まあね。とりあえず今日の可愛い天使君のことは注意深く見てやれよ」
「悪魔の俺が?」
セラフィムは、にやり、と笑った瞬間に立ち消えた。
その次の瞬間にラファエルが部屋に帰ってくる。
「クロウ、体を見せろ」
挨拶もせずに体を引き寄せられ、上から下まで見られる。
「聖水なら大丈夫だよ。少しかかっただけだ」
「守れなくて悪かった」
ラファエルは、外とこの部屋では口調も態度もまるで違っている。
どちらのラファエルもクロウは好きだった。
優しく口付けられ、クロウもラファエルへと体を寄せた。
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